消して、奪って、きみだけを
彼の気遣いにまた救われた。
さっき少し冷たいように感じたのはやっぱり気のせいだったみたい。
純粋にわたしを案じてくれているんだ。
「分かった。でも、叶人くんが犯人だって誤解は解いておきたいんだけど……」
「大丈夫だよ、夏目さんにどう思われてたって構わないから。気遣ってくれるのはうれしいけど、僕のために羽衣が思い煩う方が嫌だから……本当に気にしないでね」
叶人くんはどこまで優しいんだろう。
いわれのない疑いをかけられたり責められたりするのはあんなにも苦しいことなのに、わたしがそうなったときは彼が助けてくれたのに、わたしには何もできないんだろうか。
「羽衣は僕を信じてくれるんでしょ?」
「うん、それはもちろんだよ」
うつむくわたしに優しくそう尋ねてくれた彼に頷いてみせる。
叶人くんは柔らかく笑った。
「ありがとう。それで十分だよ」
文化祭が始まると、想像以上に大盛況だった。
学校じゅうに人があふれ、廊下も人でごった返している。
空き時間に委員長があちこちでビラを配っているお陰か、わたしたちのクラスの純喫茶も客足が途絶えることがなかった。
生徒も外部のお客さんもひっきりなしに訪れる。
空になった紙コップや皿を乗せたトレーを運んでいたら、ふいに目の前でお客さんが椅子を引いて立ち上がった。
間一髪で避けたものの、勢い余ってバランスを崩す。
つんのめって転びそうになったそのとき、ちょうど正面に現れた誰かが肩を支えてくれた。
手から滑り落ちそうになったトレーまで受け止めてくれる。
「……っと。大丈夫かよ?」
「あ、うん。ありがとう」
トレーを受け取りながら答えると、ふっと涼はまたからかうように笑った。
「気をつけろよ、本当ドジなんだから」
「そ、そんなことないってば。いまのはたまたま……」
「はいはい。じゃあ、飲みものひっくり返しそうになっても受け止めてやるから安心して転べよ」
そう言ってきびすを返すと、接客へと向かってしまう。
意地悪なのか優しいのかどちらかにして欲しい。
そんなことを思いながらその背中に感謝した。
────トレーを片づけ終えたとき、ちょうど扉付近に次のお客さんが現れた。
ふたり組の男子大学生だろうか。
明るい茶髪と耳や指に光るアクセサリーの目立つ彼らに歩み寄って声をかける。
「いらっしゃいませ。2名さまですか? すみません、いまちょうど席が埋まってしまってて……」
どのテーブルも配膳したばかりだし、しばらくは満席のまま空きそうにない。
申し訳なく思いながらおずおずと言うと、顔を見合わせたふたりはなぜかにやりと笑った。
「じゃあさ、待ってるから一緒にお喋りしようよ。きみ、名前は?」
「せっかくだし、この間に俺らと回んない? どうせきみも客が食べ終わるまで待ってるだけでしょ」