消して、奪って、きみだけを
ひと目で分かるほど軽薄な笑みを浮かべ、囲むように詰め寄ってくる。
思わずあとずさっても、まるで品定めでもするかのような目から逃れられなくて萎縮してしまう。
「あ、あの……」
「てか、めちゃくちゃかわいいよね。連絡先教えてよ」
「怖がんなくていいよー。俺ら、きみと仲良くなりたいだけだからさ。ほら、行こうよ」
強引に腕を掴まれ、ぐい、と引っ張られる。
わたしが抗う素振りを見せたからか強い力を込められてしまい振りほどけなくなった。
心臓がばくばくと早鐘を打ち、血の気が引いてしまう。
渇いた喉に言葉が張りついて出てこない。
(どうしよう。やだ。助けて、誰か……)
縋って祈るように目を瞑ったそのとき、掴まれた手の感触が消え去る。
ぱし、と払い除けて庇うように立ったのは叶人くんだった。
「汚い手でこの子に触らないでもらえますか」
一見、いつも通りに微笑んでいるけれど、その仮面の下に苛立ちが隠れているのがいまは見て取れた。
彼らは気色ばんだ様子で叶人くんを睨みつける。
「は? 何だよ、おまえ……生意気だな。俺ら、ここの卒業生なんだけど。先輩は敬えって社会のルールだろ」
「ちょっとナンパしたくらいで大げさだな。からかっただけじゃん」
その言葉に叶人くんの顔からすっと笑みが消えた。
射るほど冷ややかな視線を突きつけて言う。
「“からかった”で済むと思います? こんなに怯えて震えてるのに」
そう言われて、未だ震えの止まらない両手をたまらず握り締める。
じわ、と視界が滲んだ。
ようやく恐怖が現実感に追いついたからか、叶人くんが気づいて助けてくれたことに安心したからか、自分でも分からなかった。
「ね? 恥の上塗りをする前にさっさと消えてください。……先輩」
温度の低い静かなその怒りは、怒鳴り散らすよりよっぽど迫力があって恐ろしい。
気圧されたようにさっと青ざめた彼らは「い、行こうぜ」と逃げるように駆けていった。
「大丈夫? 羽衣」
くるりと振り向いた叶人くんは一転して、優しく労るような表情をたたえる。
戸惑いがまだ拭えないながらもどうにか頷いてみせた。
「だ、大丈夫。ありがとう、叶人くんのお陰で助かった。……また」
心臓はまだナーバスな拍動を刻んでいるけれど、彼が助けてくれて本当にほっとした。
“助けて”と無意識に縋った相手は叶人くんだったと自覚する。
「当然だよ。羽衣が困ってたら何度でも助けるし守る。そう言ったでしょ」
その優しい眼差しにますます安堵が広がって、強張った身体がほどけていく。
『今度は僕が守ってあげる』
確かに叶人くんはそう言ってくれていた。
だけど“今度は”ってどういうことだろう。
今度どころか毎回毎回、わたしが守ってもらってばかりいるのに。