消して、奪って、きみだけを
「不安なら落ち着くまで少し休んでてもいいよ」
「ううん、平気。……あ、あのね、叶人くんにお願いがあって」
「なあに?」
微笑んで首を傾げる彼に、今度は別の意味で鼓動が速くなっていく。
思わず緊張してしまいながらも密かに用意していた言葉を口にする。
「このあと、一緒にクラス回らない……?」
大小問わずどんなことでも普段は叶人くんが手を引いてくれる立場だから、わたしから何かに誘うのは初めてのことだった。
だからか、なおさらどきどきしてしまうけれど、ややあって叶人くんが笑みをこぼす。
「もちろん。……うれしいな、羽衣がそう言ってくれるなんて」
はにかむような表情と当たり前のように頷いてくれたことにほっとした。
彼は穏やかに笑いかけてくれる。
「じゃあ、残りの時間も頑張ろっか」
「うん……!」
その後は特に問題が起きることもなく、無事にシフトを終えて交代した。
日和は淡々と自分の仕事をこなしていた。
必要最低限の事務的な会話は交わしてくれたけれど、いつもみたいな雑談も、明るい笑顔も最後まで戻らないまま────。
どうしても気にかかったけれど、いまは踏み込む糸口を掴めない。
叶人くんの気遣いを無下にするわけにもいかないし、惑いながらも結局声をかけられないでいると、日和はシフトを終えるなりいつの間にか姿を消していたのだった。
わたしと叶人くんは約束通り、各クラスの模擬店や企画をふたりで回った。
昼を跨ぎ、これといって昼食はとらなかったけれど、色々なお店で食べたり飲んだりしているうちにお腹は満たされた。
縁日風のクラスやカジノ風のクラスなど、多彩なクラス企画を楽しみつつ、美怜ちゃんのクラスのお化け屋敷にも行った。
貞子に扮していた彼女は相変わらず、そっけないようなよそよそしいような態度だったけれど、最後に「来てくれてありがとう」と言ってくれた。
意外ではあったものの、ひとつ思い直す。
冷たいわけではなくて、涼の言うように人見知りなのか、あるいは感情の機微が見えづらい人なのかもしれない。
────それより、いまは重要な問題が手元にあった。
「あ、あのね、叶人くん……」
「ん? 行きたいところある?」
「そうじゃなくて……手、を……」
歩いている間、ずっと繋ぎっぱなしだった。
何となく人目も気になるし、照れくさくて恥ずかしいのに一向に離してくれない。
「……やだ」
何もはっきりとは言っていないのに、わたしの言わんとすることを察した様子で、ぎゅ、とますます力を込めてきた。
「離したくない」
「ど、どうしたの? 何かいつもと様子が……」
いまばかりは何だか駄々をこねて甘えているみたい。
普段あふれるほどある自信も余裕もすっかり息を潜め、拗ねたような表情をしていた。