消して、奪って、きみだけを

『何でもいいよ』

 こういうとき、わたしにも彼がお人形さんに見えてしまった。

 少なくともわたしには口を開いてくれるようになったし、笑顔も見せてくれるようになったのに、欲しいものやして欲しいことを尋ねると決まってこう答えるのだ。

 何を渡そうか、わたしは一生懸命考えた。
 ほかでもない彼の誕生日にあげるのだから、何か特別なものがいい。

 そして、選んだのがしおりだった。

 桜の花ならこの時期に咲いているし、見ただけできっとわたしのことを思い出してくれる。

 それにしおりだったら、本を読むのが好きな彼はいつも目にするはず。
 そう思って作ったんだ。

『お誕生日おめでとう、叶人くん!』

 本当はホールケーキに歳の数だけろうそくを立ててお祝いしたかったのだけれど、そこまではできなくて、彼とわたしの分のケーキをそれぞれ用意した。

 初めてひとりでケーキ屋さんに行って、どきどきしながらショートケーキをふたつ買った。

 誰もいないわたしの家で、クラッカーを鳴らして出迎えたら、彼はびっくりしたまましばらく動かなかった。

『……っ』

 そして、うつむいたと思ったら肩を震わせて泣き出してしまったのだ。
 今度はわたしがびっくりした。

 どこか痛いのか、嫌なことがあったのか、慌てて尋ねるわたしに、叶人くんはただ首を横に振り続けた。
 泣きながらケーキを食べた彼は、涙の隙間で「おいしい」と小さく言ってくれた。

 わたしはどうしたらいいのか分からず困惑していたけれど、そう言ってくれたのがうれしくて、すごくほっとした。
 うん、と笑って一緒にケーキを食べたのだった。

『はい、誕生日プレゼント。叶人くんにあげる』

 涙もようやく落ち着いてきた頃、わたしは桜の押し花のしおりを彼に手渡した。

『これ……しおり?』

『うん、わたしが作ったの。なくさないで、ずっと持っててね』

 しばらくしおりを見つめていた叶人くんは、やがてうれしそうに頬を綻ばせた。

『ありがとう……!』

 その笑顔はこれまで目にした中で一番輝いて見えた。

 ────それが、ふたりで過ごした最初で最後の誕生日。
 そんな記憶が唐突に蘇ってきて、つい呆然と立ち尽くしてしまう。

「羽衣……?」

 心配そうにそう呼びかけられて、はっと意識が現実に引き戻された。
 叶人くんをじっと捉えたまま言葉がこぼれ落ちていく。

「思い、出した。わたし……叶人くんにあげた、あのしおりのこと。叶人くんの誕生日のこと」

 小鳥のこともそうだったけれど、こんなに大切な記憶をどうして忘れてしまっていたんだろう。
 たまらず困惑していると、叶人くんが目を見張った。

「思い出したの……?」

 どこか衝撃を受けた様子の彼にこくりと頷く。

「ほかには?」

「え……」

「思い出した? 何か」
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