消して、奪って、きみだけを

 立て続けに問いかけてきた叶人くんは真剣そのもので、わたしの目を覗き込むようにして見据えてくる。

 隙のない声色と眼差しに、少し怯んでしまいながらも首を横に振った。

「ううん、ほかには何も……」

 そう答えると、どこかほっとしたように小さく息をついたのが見て取れた。

「……そっか。でも、よかった。そのこと思い出せて」

 それが嘘とは思えない。
 だけど、先ほど見た瞳の奥には怯えのようなものが見え隠れしていたような気がする。

 どうしてだろう。
 ふたりでの思い出が戻ったというのに、何だかあまりうれしそうじゃない。

 もしかして、叶人くんはわたしの記憶が戻ることを望んでいないのだろうか……?

 ────戸惑いが拭えないまま物販の品を見て回ると、叶人くんはヘアアクセサリーのコーナーで足を止めた。

 手に取ったのは、桜のチャームが揺れるリボンのヘアクリップ。
 わたしの髪の結い目に当ててうれしそうに頷く。

「……うん、かわいい。あのしおりの桜とお揃いだね」

 そう言うと、当たり前のように買って贈ってくれた。
 満ち足りたようなその横顔にも微笑みにも、先ほどまでの(かげ)りは見えない。

 だけど、いまはそれとは別のところで納得がいかなくて、つい手に力を込めた。
 それに気づいた叶人くんがわたしを(かえり)みる。

「どうしたの?」

「わたしも、叶人くんに何か贈りたい」

 本当にいつもいつも与えられてばかりだ。
 優しさも想いも愛情も、それらの器としてのブレスレットやリボンも。

 放っておいたらどこまで尽くしてくれるんだろう。
 このままだと、果てには甘さに溺れてだめになってしまいそう。

「僕に? でも────」

 断られてしまう前に、あたりに視線を振り向けた。

 ちょうど目に入った、白色のレザーのキーホルダーを手に取る。
 白はわたしたちのクラスカラーだった。

「今日の思い出に受け取ってくれない? お返しとしてでもいいから」

 それと同時に、またあの頃みたいに彼が隣にいる、彼と一緒にいるという奇跡を噛み締められる代物でもある。

 しおりが過去の証明なら、いまはいまの証明が欲しかった。
 わたしが自分で刻みたかった。ほかでもない彼に。

「お返しなんて……。羽衣が隣にいてくれるだけで十分なんだけどな」

 驚いたように目を見張っていた彼は、それからはにかむように頬を綻ばせる。

 でも、とわたしの手からキーホルダーを受け取るといつになく無邪気に笑った。

「うれしい。ありがとう、羽衣。これもお守りにする」

 ずっと大人びたその綺麗な顔に、しおりを渡したときの笑顔の面影が混ざって、胸の内側に懐かしさが溶け出していった。
< 121 / 186 >

この作品をシェア

pagetop