消して、奪って、きみだけを
文化祭が終わり、楽しかった気持ち半分、少しもの足りないような気持ち半分で帰り道を歩いていく。
帰りのホームルームでは、担任の先生が労いの気持ちを込めてクラス全員にアイスを買ってくれた。
色々あったけれど、甘いバニラの味が指先まで巡るように染みて、一時でも癒えた気がした。
そんなバニラの色が、叶人くんの鞄にも揺れていた。
そのキーホルダーを見て、うれしくて小さく笑う。
「つけてくれたんだ」
「もちろん」
ふわりと微笑んだ彼は、陶然と言葉を繋ぐ。
「僕がきみのものって証……だもんね? あのしおりと同じ」
思わぬ言葉に「え?」と返した声は掠れた。
そんな独占欲の誇示やマーキングの意図なんて持ち合わせていない────はず。
(あれ……?)
記憶の海に浸された手が、ふいに何かに触れた。
『たしかにちょっと変わってるかもしれないし、怒るとこわいけど……優しいよ。わたしは知ってる』
そんな声が耳の奥で鳴り響き、思わず足を止める。
『わたしがいるのに……』
ざわざわと胸が騒いだ。
触れているのに取り出せなくて、これがどんな記憶なのか分からない。
『わたしがいれば十分でしょ?』
残響のようにたわんでいた声が止むと、それが幼い自分の声だったことに気がついた。
わたしの言葉?
いつ、誰に向けて言ったこと?
信じられない思いで動揺してしまう。
いったいどういうことなんだろう……?
「どうかした?」
突然立ち止まったわたしを心配そうに振り返った叶人くんに、とっさに笑って誤魔化す。
「あ、ううん。ていうか、大げさだよ。叶人くんがわたしのものとか……」
「全然大げさなんかじゃないよ。そう思ってくれてたらうれしいけどな」
冗談のつもりかと思ったのに、彼は浮かべた微笑を深めていく。
底の見えない深い色の眼差しでわたしを捉えた。
「少なくとも僕はそう思ってるよ。僕はきみのものだし……きみは僕のものだ」
熱っぽい視線で絡め取られ、身動きが取れなくなる。
わたしの髪に触れると一瞬のうちに結い目をほどき、さら、と指で梳くように流した。
「だって、そうでしょ? きみは僕の“初めて”をぜんぶ持ってる。だから記憶の真ん中にはいつだって羽衣がいたし、僕の世界の中心は羽衣なんだ」
そう言うと、ひと房の髪束を手に取り、愛しそうに口づけを落とす。
確かにわたしの身体の半分は既にわたしのものではないのかもしれない。
だって、彼の手の温もりも唇の感触も知っているはずなのに、髪を通しても感じられなかった。
ただ心臓の音が響いて、甘く痺れる心に届いただけ。
叶人くんはひときわ柔らかく微笑みかけた。
「僕のぜんぶをあげるから……きみのすべてを僕にちょうだい」