消して、奪って、きみだけを
●第5章 嘘と恋煩い
昇降口で日和を待つ間、何度も弱い自分が囁いてきた。
怖い。
無視されたらどうしよう。
文化祭のあの事件のあとからほとんど口を聞いていないし、目も合わせてくれなかった。
嫌われたかもしれない。
そう思うと、この心の半分くらいがごっそり削げ落ちたような感覚に陥る。
それでも、やっぱり誤解は解いておきたかった。
日和の中で叶人くんを悪者にしたまま、こんなふうに疎遠になってしまうなんて嫌だ。
(叶人くんが平気でも、わたしが耐えられない)
彼のためなんて本当は建前で、ただ自分のためにそうしたいだけかもしれない。
だけど、このままじゃいけないことは分かる。
逃げ出したくなるほどの不安を、ブレスレットを握り締めるように紛らわせた。
いつの間にかわたしにとってのお守りになっていた。
登校してくる生徒の群れの中に、日和の姿を見つけた。
はっとして心臓が跳ねる。
感情が追いつく前に踏み出した。
「日和……」
そう呼ぶと、わたしを認めた日和は驚いたように目を瞬かせる。
それから億劫そうにイヤホンを外し、眉をひそめた。
「……なに?」
刺々しい声だったけれど、無視されなかったことにほっとしてしまう。
実を言うとイヤホンすら外してくれないんじゃないかと不安だった。
「あの、ね……わたし、ずっと日和に頼りきりで、たくさん迷惑かけてきたと思う。叶人くんのことも、同じ人を好きになっちゃって……そんなわたしに嫌気がさしたなら、本当にごめん。ごめんなさい」
両手を握り締めたまま、精一杯の心を込めて頭を下げる。
日和はずっとわたしを信じてくれていた。
叶人くんへの気持ちも、だからこそわたしに打ち明けてくれたのに、わたしも“協力する”と言ったのに、結局は日和を裏切ってしまった。
わたしの想いも叶人くんとの関係も、日和にとっては許せるものじゃないはずだ。
分かっていたはずなのに、わたしは選んでしまった。
「でも、そんなふうには言って欲しくなかったの。衣装のこと、叶人くんの仕業だなんて」
頭をもたげてそう続けた声は揺れてしまう。
わたしのことは許せなくても、嫌っても、そこに叶人くんを巻き込んで欲しくない。
「前にも言ったけど、わたしにとっては日和も叶人くんも大事な存在なの。それだけは……分かって」
涼に疑いをかけられても、日和に公然と糾弾されても、叶人くんは“気にしない”と笑っていた。
根拠も何もない言いがかりにさえ、気を悪くした様子はなかった。
きっとそれも、ふたりがわたしの友だちだから。
そんなに優しい彼をこれ以上傷つけたくない。
唇を噛み締めたとき、ようやく周囲の目とざわめきに意識が向いた。
恐らく文化祭の例の事件によって好奇の眼差しや注目を集めてしまっていたのだと思う。
どうしよう、と困惑していると、日和が大きくため息をついた。
「……うざい。あんたって本当、偽善者だよね」