消して、奪って、きみだけを

「……羽衣」

 優しい声が降ってきて、後ろから両肩を支えるように手が添えられた。
 顔を上げなくても誰なのか分かる。

「羽衣のせいじゃないよ。怖かっただろうに、こうして話しにきたのは羽衣の優しさと誠実さだよ」

「叶人くん……」

 包み込むような言葉はあたたかくて、声色はあまりに優しくて、ますます泣きそうになってしまった。
 毒に(おか)された心が浄化されていくみたい。

「悪いのは……心ない言葉ばかり口にする夏目さんだ」

 触れたてのひらから注ぎ込まれていくようだった淡い光が、毒を解く魔法が、そのひとことでふいに止んだ。
 弾かれた水みたいに染み込んでいかない。

 確かにさっきは深く傷ついた。悲しかった。
 だけど、いままでのすべてが嘘だったとは、日和と過ごした時間が偽物だったとは、どうしても思えない。

 受け入れたくないわたしの願望かもしれないけれど、わたしにとってはやっぱり、日和は大事な友だちだから。



 休み時間になると、涼がわたしのもとへ歩み寄ってきた。

「ちょっといいか」

 そう連れ出され、同じフロアにある自販機へと向かう。

 何か飲むか尋ねられたけれど首を横に振ると、自分用に炭酸飲料を買った涼はひとくち含むなり切り出した。

「日和のことだけどさ、真に受けんなよ」

 もしかすると今朝の昇降口での出来事を、彼も目にしていたのかもしれない。
 困ったような難しいような表情で言葉を繋ぐ。

「あれは、あいつなりに出した答えっていうか……。とにかく、おまえが嫌いとか友だちじゃないとかそういうのは本心じゃねぇはずだから」

 やっぱり見聞きしていたのだと確信に変わると同時に、考えるまでもなく頷いていた。

「うん、わたしもそう信じたい」

 涼がそう言ってくれると、ますます安心して自分の直感を信じることができた。
 これまでのすべてが嘘とは思えない。

 いまは無理でも、日和ともう一度話す機会が、日和の本心を聞けるときがそのうち巡ってくるはず。
 わたしが傷つけたことには変わりないけれど、そのことからも目を背けたくない。

 怖くても逃げない。
 わたしはひとりじゃないから。

 ほとんど無意識のうちにブレスレットに触れていて、それに気づいた涼が口を開く。

「そういえば、この間から気になってたけどそれどうしたんだ?」

「あ……えっと、叶人くんにもらったの」

 何となく照れてしまいながらはにかんで答える。
 その瞬間もだけれど、ブレスレットにまつわる記憶はどれも甘すぎて思い返すたびにどきどきした。

 一瞬、面食らったように言葉を忘れた様子の涼は、ぱっと目を逸らして言う。

「つか、あれだよな。何かみんなおまえらが付き合ってるみたいに勘違いして……」

「勘違いじゃないよ」
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