消して、奪って、きみだけを
いつもなら何よりほっとするはずの声に、びくりと跳ねた肩が強張ってしまう。
そろりと振り向くと、叶人くんが心配そうに歩み寄ってきた。
「大丈夫? 顔色が悪いけど……」
「……っ」
彼の胸元が血に染まっている幻を見て、怯んだようにあとずさってしまう。
記憶の断片を握り締めているのに、叶人くんの輪郭が曖昧にぼやけていた。
◆
『……こわくないの? 僕のこと』
一緒に小鳥を埋葬して見送ったあの日から、羽衣は僕にとって“特別”な存在になった。
感情を抑圧するしかなくて、言葉を失っていた僕を“人形”と呼び始めたのは誰だっただろう。
誰もが恐れて遠ざける中、羽衣だけが人としてまっすぐに接してくれた。
血の通った人間でいることを許してくれた。
あの頃の羽衣はいまより活発で、僕よりずっと強くて優しい女の子だった。
噂や嫌がらせで孤立していた僕にも臆せず笑いかけてくれたし、何かあるたびに庇って、救って、守ってくれた。
僕の抱える痛みに寄り添ってくれたのも羽衣だけだ。
いち早く気づいてくれるのはいつだって彼女だった。
────“あの日”もそう。
お城を支配する魔王にも、勇敢に立ち向かってくれた。
羽衣と離れ離れになったあの雨の日、本当は近くまで彼女が来ていたことを知っている。
魔王の支配が終わってから、彼女がずっと震えていたことにも気づいていた。
だけど、何も言えなかった。
大人たちに阻まれて、言葉を交わすどころか会う機会すら与えてもらえなかったから。
あれから、ずっと雨は降り止まないまま。
きっとまたひとりになったせいだ。
ひとりになったら、羽衣と離れたら生きていけないと思っていた。
しかし、逆だった。
羽衣ともう一度会うために生きるしかなかった。
大人たちが強制的に幕を引いた僕たちの日々の続きを、諦められずにずっと願いながら。
羽衣と離れてまた人形に戻った僕は、慣れない場所でひとりぼっち、信用できない人間に囲まれながら暮らしていた。
何度も孤独に打ち負けそうになった。
雨の日は特に、雨音に混じってひたひたと忍び寄ってくる不安や恐怖が悪夢を見せる。
別れの日のことを思い出すのだ。
大人たちの隙間から見えた、羽衣の傘の桜色。
あのとき、彼らを押しのけてでも羽衣に会っていれば、いまこんなに苦しくはなかったかもしれないのに。
いったい、何度そう思ったことだろう。
僕は知っている。
羽衣と引き剥がされたのは、僕が頼りなくて弱い子どもだったからだ。
だったら、その正反対の人間になればいい。
誰にでも信頼される完璧な人間になれば、阻まれることなく羽衣に会いにいける。