消して、奪って、きみだけを

 冷たくて味もしない孤独な毎日は辛かったけれど、この世のどこかに羽衣がいると思えば耐えられた。
 同じ空を見上げているのだと思えば、果てしない寂寥(せきりょう)感も少しは紛れた。

 羽衣にずっと会いたかった。

 いつか、絶対に会いにいく────その決意をよすがに何年も耐え忍んだ。

 いつか再会できたら、あの雨の日に言えなかったことを伝えたいと思っていた。
 ────けれど。

「久しぶりだね、羽衣」

「叶人、くん……」

 7年ぶりにようやく会えたのに、羽衣の表情は晴れなかった。
 驚いているというより、悄然(しょうぜん)と戸惑っていて目すらまともに合わせてくれない。

 あの頃とは何もかもが変わってしまい、僕の存在なんてもうどうでもよくなったのかと焦った。
 彼女の世界から追い出されたら、僕は何のために生きているのか。

 しかし、そうではなかったと羽衣の言葉で悟った。

「ごめんなさい。あのとき、わたし……。わたしのせいで────」

 それが“あの日”のこととそれによって起きたすべてのことを指しているのだと分かったら、羽衣の表情が晴れない理由にも合点がいった。

 それでも、会えなかった間、羽衣もまた僕のことを思ってくれていたのだと分かったら、正直うれしかった。

 だけど、不本意でもある。

 僕にとって羽衣との思い出はどれも幸せそのものなのに、そんな的外れな“罪悪感”のせいで彼女にとっては辛い象徴になってしまっているということが。
 羽衣は僕を救ってくれたのに。恩人なのに。

 まさか、そこまで追い詰められるほどのトラウマになっていたなんて知らなかった。

「大丈夫だよ。だからもう忘れていい。辛いことはぜんぶ忘れていいよ」

 羽衣から笑顔を奪うような苦しい記憶なんて、ぜんぶ消えてしまえばいい。
 楽しくて幸せだった思い出だけに浸ろう。

 苦痛から解放してあげたくて頭を撫でたら、信じられないことが起こった。

 てのひらを通して、羽衣の記憶に直接触れたみたいにヴィジョンが流れ込んできたのだ。

 魔王と戦った“あの日”のことも、離れ離れになった雨の日のことも、しおりをくれた誕生日のことも────僕との色々な過去が手に絡みついてくるようで呆然とした。

 信じられないことはそれで終わりじゃなかった。
 本当に、羽衣から記憶が消えていたのだ。

「叶人くんが、その……頭を撫でてくれてたでしょ? それは覚えてるんだけど、それがどうしてだったか、そのときに何を話してたか思い出せないの」

 ────これはきっと、羽衣を救いたい一心で芽生えた不思議な力なのだと思った。
 にわかには信じられないけれど、そうとしか思えない。
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