消して、奪って、きみだけを
「え?」
「文化祭の日のこと。わたしが夏目さんを追い詰めちゃって、結果的に桜木さんと仲違いさせてしまったから」
そう言われて、切り刻まれた衣装や彼女が提示した証拠写真のことが脳裏によぎる。
苦い表情で受け止めた。
もしかして、それをずっと気にしていて、わざわざ謝るために声をかけてくれたのだろうか。
「あれは……美怜ちゃんのせいじゃないよ」
写真におさめられていた、はさみを手に衣装の前に佇む日和の姿も蘇ってくる。
あまりのインパクトで克明に焼きついてしまっていた。
「でも、あの写真は信じられないっていうか、信じたくないっていうか……。まさかこんなことになっちゃうなんて」
真相は分からないままだけれど、状況やその写真を証拠に日和が犯人ということになってしまった。
だけど、やっぱり日和はちがうとわたしは思う。
それなのにそんな表向きの真実を覆す材料もないし、日和との関係はこじれてしまったし、どうすることもできないでいる。
「晒したみたいになっちゃったよね。やっぱり、わたしを責めたいんだ」
美怜ちゃんの声色は淡々としていて感情が乗らない。
おまけに表情の変化も乏しいから、怒っているのか落胆しているのか分からなくて慌てる。
「そういうことじゃなくて……!」
「わたしはあなたを助けようとしただけだったのに」
前を向いたままそう続けられて、何も言えなくなってしまう。
ただ、少なくとも美怜ちゃんに悪意がなかったことは分かった。
衣装のことも、日和を糾弾しようとしたわけではなくて、ただ偶然知ってしまった事実を明かしただけ。
わたしの困惑とあの場の混乱を鎮めようと声を上げてくれたに過ぎないのだろう。
ごめん、と喉元まで込み上げた言葉がこぼれ落ちるより先に、美怜ちゃんが再び口を開く。
「でも、これではっきりしたね。友だちより好きな人────それが桜木さんの答えってことでしょう?」
相変わらず言い方に温度はないのに、何となく棘があるように感じられて気持ちが怯んでしまう。
そんなふうに言われると極端だけれど、結果としては同じだから心苦しくても否定できない。
責められているのかと思ってたまらず口をつぐむものの、美怜ちゃんは淡々と続ける。
「あ、誤解しないで。それが悪いことだなんて思ってません。わたしもそうするし……ていうか、してるし。自分の気持ちが最優先だよね」
彼女がこんなに話す人だとは知らなかったし、好きな人がいることも知らなかった。
こちらを向いた美怜ちゃんの瞳は何となく、まだ知らない色をしているように感じられる。
もともと知っていることなんてほとんど何もなかったはずなのに。
「人間、正直が一番だよ。あなたも……あれだけ愛されてれば離れられなくなって当然だね。一度でも甘い味を覚えちゃったら」