消して、奪って、きみだけを
それが叶人くんのことを指していることは明白だった。
声色が変わらないから、やっぱり感情は見えない。
だけど、知らないと思っていた瞳の色にふと懐かしさを感じた。
何を考えているのか分からない、お人形みたいな雰囲気が、不思議とあの頃の叶人くんを思い起こさせる。
全然ちがうはずなのに、どこか似ているような気がする。
「彼と桜木さん、本当にお似合いだと思う」
そう言ってまた前を向いた美怜ちゃんのノーブルで繊細な横顔には、何だか影がさしているように見えた。
◆
昼休み、購買へ向かおうと教室を出た俺のあとを追いかけてきたらしい日和に肩を掴まれる。
ふたりで階段を下りていく途中、日和が口を開いた。
「見た? 羽衣の鞄、マスコットが増えてた」
「……何でそんなマスコットにこだわるんだよ」
神妙な顔をしているから何かと身構えていたのに拍子抜けしてしまう。
しかし、日和は珍しく真剣な様子で続けた。
「あれはあたしに対する叶人くんの露骨な当てつけなんだよ。上書きしてマウント取ってるんだって。感じ悪いでしょ」
「落ち着けって。そうとも限らねぇだろ」
「ねぇ、あんたはこのままでいいの? 時間が経つほどふたりを引き離すのも難しくなるんだよ。羽衣があいつに何されるか……」
その焦燥は俺のことも同様にせっついてきていた。
このままでいいわけがないが、羽衣に言葉が届かない以上は何もできない。
『あいつはおまえのそういう感情も利用してんだよ。だから────』
『やめてよ……!』
あんなに傷ついたような顔はもうさせられない。
やっぱり、闇雲に訴えかけたって信じられないに決まっている。
俺や日和が若宮を敵視すればするほど羽衣は悲しみ、ますますあいつに傾倒していく悪循環。
こんなにもどかしいことはない。
しかし、それにしたって日和のやけに切羽詰まった態度が気にかかった。
余裕のなさそうなその表情は、何か得体の知れないものに出会って惑っているようにも見える。
「……何かあったか?」
窺うように尋ねると、日和はこちらを一瞥して話し始める。
「問い詰めたんだよね、叶人くんのこと。ぼろを出したら羽衣に聞かせようと思って録音してたの。そしたら……本当にぜんぶ仕組んでたって認めたけど、でも」
「でも?」
「録音してることバレてて……。そんなの意味ない、って。消せばいいだけだ、って」
はっと息をのんで眉を寄せた。
信じられないのに不思議と妙に腑に落ちる。
「記憶を、か……」
それがデータの話ではなく羽衣の記憶の話だとすぐに思い至ったのは、前々から不自然なことが何度か続いていたからだった。
なぜか羽衣から記憶が抜け落ちているのは、肝心なことばかりを忘却しているのは、やっぱりあいつの仕業だったのだ。