消して、奪って、きみだけを
「あ、叶人くんなら今日は用事があるって先に帰ったよ」
それにしたって、羽衣を置いてひとりで帰るなんて珍しい。
訝しく思っていると羽衣は眉を下げて笑う。
「……それに、叶人くんと付き合ったからって涼のことをおろそかにはしたくない。叶人くんも気にしないって言ってくれてるし、涼は友だちでしょ?」
何気なく発せられた“友だち”という言葉に、何かが胸に刺さったような感覚がした。
ナイフとまではいかないが、針のような鋭利なものが刺さったまま抜けない。
「……ああ、そうだな」
分かっていたことだし、俺だってそれでいいと思っていた。
羽衣に好きなやつができたって、それが俺じゃなくたって、羽衣が選んだことなら背中を押すだけのこと。
傷ついたときには寄りかかれるように腕を広げて、悩んでいるときにはその荷を半分持ってやる。
それが、友だちとしての俺の役割のはずだった。
恋に破れて俺自身が傷ついても、羽衣が幸せなら笑って祝福できるはずだったのだ。
相手が若宮じゃなければ。
どう言えば伝わるんだろう。
どうすれば羽衣に届く?
こんな状態で喚いたって、ただ嫉妬に耐えかねて言いがかりをつけているようにしか見えない。
信用を失って、嫌われるだけだ。
「涼……?」
心配そうに呼びかけられ、はたと我に返る。
眉根にきつく力が込もっていたことにいま気がついた。
「ああ……悪ぃ。つか、珍しいな。あいつにしては寛容で」
是が非でも俺と羽衣をふたりにはさせないと思っていたのに意外だ。
だからこそ、休み時間は若宮の目の届かないところへ連れ出したのにあっさりしている。
「珍しくなんてないよ。言ったでしょ、叶人くんは優しいって。いつものことだよ」
柔らかい羽衣の笑みを見ていたら、ほどいたはずの力がまた戻ってきて眉根を寄せた。
(……余裕ってことかよ)
寛容なんかじゃなく、嘲笑っているだけだ。
所詮、俺なんて脅威でも何でもないと、羽衣の心が揺れる心配もないと、現実を突きつけながら。
「あ、その……ごめん。美怜ちゃんは大丈夫かな」
「一日くらい平気だと思う。今日は断っとくよ」
そう言っても、羽衣は申し訳なさそうに眉を下げたまま。
誰も責めていないのに勝手にひとりでぜんぶ背負う悪い癖だ。
「それより、何か俺に話したいことでもあったか?」
話題を変えるようにそう尋ねると、羽衣は驚いた様子で目を丸くした。
約束を取りつけなくても前は自然と一緒に帰っていたが、それでも羽衣はたまに“一緒に帰ろう”とわざわざ口にすることがあった。
そういうときは大抵、落ち込んでいるか、嫌なことがあったか、あるいは雨の日。
今日は晴れているが、何かあったことは間違いなかった。
羽衣は目を伏せて微かに頷く。
「うん……。聞いてくれる?」