消して、奪って、きみだけを
     ◇



 学校を出てコンビニへ立ち寄ると、涼はそこで買った苺味のワッフルを半分くれた。

 ふわりと広がって漂う甘酸っぱい香りが風に乗って運ばれていく。

 帰り道をふたりで歩くことも何だか久しぶりに思えて、少しだけ遠くに感じてしまっていた涼の存在が変わらずそばにあったことにほっとする。

「ありがとう、いつも」

「それはワッフルに対してか? それとも俺への感謝?」

「ワッフルかな」

「よし、おまえにはもう半分もやらねぇ。返せ」

 取り返そうと伸ばしてくる涼の手を「うそ、冗談」とあしらっていると、何だか楽しくて自然と笑ってしまう。
 呆れたようにしかめ面をしていた涼もいつの間にか破顔(はがん)している。

 もともとわたしたちの距離感なんてこんなものだった。
 いつだってこうしてすぐに元通りになるのに、何が変わってしまうことを不安がっていたんだろう。

「叶人くんには内緒ね」

 気にしない、なんて言いながら本当はやきもちを妬いていることが分かった。

 わたしを困らせないために平気なふりをしてくれているけれど、そうと分かっているからこそ不安にさせたくない。

 一瞬、ぴくりと眉を寄せた涼だったものの、すぐにわざとらしくため息をついた。

「……はいはい。で、話したいことって?」

 そう促されて自然と背筋が伸びた。
 えっと、と言葉を探し始めたはいいものの、どう言えばいいものか急に迷ってしまって先が続かない。

 涼は()かすことも逸らすこともなく、ただ待ってくれている。

 どうしよう、やっぱり涼に話すようなことではないのかもしれない。

 躊躇(ちゅうちょ)が霧のように立ち込めてきて口が重たくなる。
 迷うほど言葉は遠のいていき、落ちているはずもないのに地面を眺めてしまう。

「……なに、そんな嫌なことでもあったのか?」

「ううん、そうじゃなくて」

 見かねて声をかけてくれたお陰で、口を縫っていた糸が切れた。
 率直に言葉にしてみる。

「ちょっと、分からなくなってきて。叶人くんのことも……どうしたらいいんだろう」

 視線をさまよわせて言い終える頃にはまたうつむいてしまっていた。

 いくらわたしが涼を信頼しているからって、叶人くんをよく思っていない彼にこんな相談をするのはお門違いであるような気がした。

 これまで叶人くんに関する涼の言葉には耳を塞いできたくせに、都合に応じてこんなふうに頼るなんて勝手すぎる。
 怒らせてしまうのではないかと内心怯んだものの、返ってきたのは真剣な声だった。

「どういうことだ? あいつと何かあったってこと?」

「直接何かあったっていうわけじゃないけど……」

 そう言うと、今度こそ慎重に言葉を探した。

「過去のことを少しずつ思い出してるのは本当なの。思い出すことが償いだと思って……。でも、叶人くんは思い出して欲しくないのかもしれない」
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