消して、奪って、きみだけを

「……俺は反対だけど。力ずくでも止めたいくらい」

 まじめな顔で冗談めかしたことを言うから、どのくらい本気なのか分からない。
 きっと本気なのだろうけれど、わたしの意思を尊重してくれようとしているのだと思う。

「でも、分かった。それならおまえの記憶が消されたときは、知りうる限りで俺が教えてやる。何回でも取り戻してやるよ」

「涼……」

「あいつを信用するわけじゃねぇから、決定的に危ういと思ったらそのときは全力で引き剥がす」

 意思の強いその瞳はその実、思いやりにあふれていた。

 それならわたしは叶人くんが涼の警戒するような悪い人ではないということを、その優しさを証明したい。

 涼にも知って欲しい。
 わたしにとってはかけがえのないふたりが、相容(あいい)れないまますれ違い続けるなんて悲しすぎるから。

「ありがとう、心配してくれて」

「まあ、笑ってる場合じゃねぇけどな。気をつけろよ。あいつには、記憶のことに気づいたってことがバレないようにしねぇと」

 それさえ“都合が悪い”なら、また記憶を消されてしまって降り出しに戻ってしまう。
 涼が懸念しているのはそういうことだろう。

「うん……。そのときはお願いするね」

「……ああ」



     ◆



 喧騒に包まれた昼休み、廊下の長椅子にへたり込むようにして腰を下ろした。
 その横に購買で買ったレモンティーとメロンパンを投げ出す。

「あー、疲れた」

 座ったら何だか余計にどっと疲労がのしかかってきたような気がする。
 正直、こんなことをしている場合じゃないのに。

(羽衣……)

 若宮による記憶操作の秘密に気がついて、羽衣と話してから数日。
 その事実を知ったら怒るか悲しむかと構えながら話したが、結果としてそのどちらでもなかった。

 まさかそれでも“信じたい”なんて言うとは思わなかったけれど、洗脳されて盲目的になっているというようにも見えなくて、危険だと分かっていながらも押し切れなかった。

 ほかでもない羽衣自身の意思や選択を俺が否定するわけにはいかない。
 俺だからこそ相談してくれたというのなら、なおさら。

 だから、俺も自分にできることをするしかなかった。
 羽衣を守るために────あいつの危うさを暴くことができたら、そうして遠ざけることができたら、やっぱり最善なのだろう。

 そのとき、ふとスマホが震えた。

【まだですか?】

 立原から催促するようなメッセージが届く。
 普段もたまに敬語が混ざるあいつは、メッセージアプリでは常に敬語だった。

【いま行く】

 素早く打って返し、スマホをしまうと息をつく。

 昼食のおつかいとして購買に行ってきた帰り、ついここ何日かの疲労が溜まって休みたくなってしまった。

 本当は羽衣のことが案じられて仕方ないのだが、ことさら立原に呼び出される機会が増えて、羽衣と話すことすらなかなかできなくなっていた。
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