消して、奪って、きみだけを
しかし、仕方がない。
立原を気にかけて不便がないよう支えることもまた、俺のするべきことだ。
「おつかれ。お守りも大変そうだねー」
ふいにそんな暢気な声が降ってきて顔を上げると、日和が同情するように笑っていた。
つい気が抜けてため息がこぼれる。
「大変だよ、マジで。俺のせいだからしょうがねぇけどな」
「あんたって偉いよ。こう見えて本当に誠実だよね」
いったいどう見えているのか知らないが、日和は素直に感心したように言った。
やっぱり日和が素直になると肌があわ立ちそうになる。
「……でも、正直ちょっとおかしくね? さすがにそろそろ治ってもいい頃じゃねぇか?」
捻挫の程度がどんなレベルなのか、傍から見ているだけでは分からないが、回復に向かう気配すら一向になくて妙だと感じていた。
「まあ、確かにね。あの子も誰かさんみたいに、あんたに執着してるみたい」
「勘弁してくれよ」
さすがに冗談だろうが、笑えないのは“執着”を体現したような人物が身近にいるせいだ。
しかし、俺には立原にそんなことをされる覚えなんてない。
言った本人にとっても笑えない冗談だったのか、日和は「いまのはなしで」と真顔で言っている。
「羽衣たちだけじゃなくて、あんたたちもずっと一緒で羨ましい限り。涼は羽衣に誤解されないようにねー」
清々しく吹っ切れたような言い方ではあったものの、実際には気にしていないわけがなかった。
衣装事件やそれに付随する羽衣との問題は、まだ終わっていない。
「なあ、そのことだけどさ……」
「いいよ、何も言わなくて。どうせしばらくは身動き取れないんだから、あたしのことは気にしないで」
明朗な笑顔はいつも通りながら、事情を知っているだけに無理に強がっていないか心配になる。
しかし、表情も声色もさっぱりしていて、諦めたというよりはタイミングを計っているのかもしれない。
いずれにしてもそう深刻に悲観することはないと、ふたりの仲を知っている俺には信じられた。
口を開こうとしたその瞬間、またしてもスマホが震える。
立原からさらなる催促のメッセージだろう。
「ほら、お待ちかねだよ。ファイト」
もう一度だけ深く息をつき、立ち上がった俺は日和の見送りを受けながら立原の待つ教室へと向かった。
「……遅かったね。お腹すきました」
「悪かったって。途中でちょっと休んでたんだ」
“購買が混んでいた”とかそれらしい嘘をついていれば、いつになくむすっとしている立原の苛立ちも少しはおさまったかもしれない。
しかし、そういう世渡りを不実だと感じてしまうから俺は不器用なのだろう。
ただ嘘をつきたくないだけなのだが。