消して、奪って、きみだけを

 無言でぴったりの金額を渡してきた立原は、机の上に置いたメロンパンを無言で開封してかじった。

 珍しく機嫌が悪いのは空腹のせいでも俺が遅かったせいでもなく、ここのところずっとだ。
 厳密に言えば、羽衣と帰った日から。

 連絡を入れて断ったのだが、俺が羽衣を優先したと解釈した立原はそれが不服のようだった。

 とはいえ、そんなふうに()ねられても困る。
 俺たちは事情があって一緒にいるだけで、別に恋人でも何でもないのだから。

 だからこそ、余計に疲れてしまっていた。

 基本いつでも呼び出されたら飛んでいき、朝も帰りも介抱して、昼休みには足になって、少し離れただけで不満を向けられる現状に。

 束縛(そくばく)されているような感覚がして、窮屈でならない。
 その疲労やフラストレーションが責任感を上回ろうとしていた。

「……なあ、あのさ」

 そう呼びかけると、黙々とメロンパンを食べていた立原がまっすぐな目を向けてくる。

「おまえのその足だけど、いい加減よくなってきてはいるんだよな?」

 日和にもこぼした違和感というか疑問を、ついこらえきれずにぶつけた。
 手を止めた立原は目を(しばたた)かせる。

「……どうして?」

「いや、さすがに治りが遅すぎるんじゃねぇかなと思って。捻挫だろ?」

 骨折ならまた話が変わってくるが、最初に“捻った”と立原本人が口にしていたはずだ。

 そもそも尻もちをつく形になったとはいえ、ああしてぶつかった程度で捻挫までするものだろうか。
 いまになってそんな疑問が湧いた。

 口をつぐんだ立原は目を伏せ、食べかけのパンをそっと置く。

「……わたしといるのが嫌になった?」

「そうは言ってねぇけど」

 立原はたまにこういう芯を食ったような鋭いことを口にする。
 完全に的外れではないけれど極端な、相手を試すような台詞。

 そっと椅子を引くと、彼女は黙って左足に巻かれた包帯に手をかけた。
 湿布の貼られた足首があらわになる。

 想像以上に腫れていた。
 赤紫色っぽい内出血が湿布の範囲以上に広がっており、あまりの痛々しさに表情が引きつってしまう。

 これでは確かに歩くときに引きずるほどだし、まだ階段の上り下りも辛いことだろう。

「……悪い。その、別に嘘だって疑ってたわけじゃなくて」

「いいよ、これで分かってくれたでしょう?」

 そう言いながら淡々と包帯を巻き直す立原に、それ以上は何も言えなくなった。



 放課後、この間と同じように羽衣が歩み寄ってくる。
 自ずと教室内を見渡しても若宮の姿はなかった。

「羽衣、ごめんな。今日は一緒に帰れない」

 先んじて苦笑混じりにそう言うと、羽衣は眉を下げたものの笑って「そっか」と頷いてくれる。

 あんな立原の足の状態を見たあとで、また“今日くらい”と自分を優先できるほど図太くはなれなかった。

 さすがに放っておけない。
 自分のせいならなおさら楽観視できない。
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