消して、奪って、きみだけを
少しずつ思い出している、と言っていた通り、忘れても完全に消えることなくどこかに残っているわけだ。
記憶をつぎはぎしても、綻びは誤魔化しきれないから。
いずれは、あるいは何かきっかけがあればほつれる。
怖いものなしだと思っていた若宮の力の抜け穴はそこにある。
「気持ちは分かるよ」
口をつぐんだ俺を眺め、ふと笑みを深めた。
笑っているのになんて冷ややかなんだろう。
「辛いよね、きみの立場……いまとなっては、友だちだから羽衣のそばにいられるわけだし。きみにはその関係を守り続けるしかない。残酷だよね」
心に刺さったまま抜けなくなっていた針を、いっそう強く押し込まれた気がした。
「……あ?」
「でもね、これがあるべき形なんだよ。あの頃から決まってた。羽衣の隣にいるべきは僕だ。きみはただの“代わり”」
傷が広がり、次第に爛れていく。
嘘くさい笑顔にも非情な言葉にも苛立つのに、だんだんその理由が分からなくなってくる。
腹を立てたら、若宮の言葉を認めているも同然じゃないのか。
「僕がいない間、羽衣の孤独を埋めてくれてたことには感謝してる。でも、僕が戻った以上もう必要ない。きみの役目はおしまい」
色を深めた双眸の暗さに情けなくも気圧されてしまう。
広がって爛れた傷口をかき混ぜ、容赦なく塩を塗りたくってくる若宮を睨めつけた。
「分かるよね? 羽衣が言うから仕方なく我慢してるけど、僕はそこまで寛大な人間じゃないから……。そろそろわきまえてくれると助かるんだけど」
羽衣のためにも────と耳元で囁かれ、ぎり、と奥歯を噛み締めた。
同時に強く握り締めた拳が震える。
「……っ」
ここでこいつに掴みかかっても、殴りかかっても、得られるものなど何もない。
それこそ図星だと示してしまうようなものだ。
「……あの日の帰り、ワッフルは美味しかった?」
流れた雲が太陽を覆い隠して陰ったように、すっと若宮の顔から笑みが消える。
その言葉に弾かれたように顔を上げた。
「おまえ、それ……何で」
ばか正直にも瞳が揺らぐのを自覚する。
言わずもがな羽衣と帰ってコンビニに寄った日の話だろうが、なぜ若宮がそれを知っているんだろう。
“内緒”と言っていた羽衣がわざわざ話すとは思えない。
だとすれば、まさか近くに潜んで見聞きしていたとか。
どこから、どこまで……?
思考が渦巻き、疑念や不信感が膨れ上がっていく中、氷よりも冷たく凍てつくような眼差しを突き返される。
ぞくりと背筋が冷えた。
「ああいう、似合わないことはやめてくれるかな。……虫唾が走る」