消して、奪って、きみだけを
困惑する羽衣に答えるゆとりも失ったまま、ぎゅう、とマスコットを握り締めてみる。
硬い。
愛くるしい見てくれとは裏腹に、何か角張ったような手応えが返ってきて動揺した。
(まさか……)
ひらめくと同時に、思わず力任せにくまを引っ張っていた。
その衝撃でボールチェーンが外れ、いとも簡単に鞄から離れる。
「な、何するの?」
突然の行動に驚いた様子の羽衣は惑いながらも、俺の手に渡ったくまを取り返そうと腕を伸ばしてきた。
届かない位置に持ち上げて躱し、ポケットにねじ込む。
「悪ぃ、少し貸してくれ」
「ちょっと……涼!」
唖然として慌てたように俺を引き止める声を背中に浴びながら、俺は校舎へ飛び込んだ。
────廊下を抜け、隣のクラスの教室へと駆け込む。
窓際の一番後ろの席へ向かうと、凜と座っていた立原が驚いて見張った目に俺を捉えた。
「立原、はさみあるか?」
「……急にどうしたの」
「いいから!」
そう声を張って急かすと、びくりとわずかにその肩が跳ねる。
脅かすつもりはなかったのだが、そう弁解する余裕も謝る余裕もないまま差し出されたはさみを掴んだ。
くまの背中に刃を突き立て、切り裂いていく。
「ちょっと……」
不可解な行動にますます困惑する立原に構わず、詰められていた綿を取り出す。
すると、中から小さな黒い機械が出てきた。
「……やっぱり」
「なに、それ?」
明らかに常軌を逸しており、にわかには信じがたいが、予想通りでもある禍々しい代物だ。
作動していることを示すように赤いランプが明滅している。
衝撃と憤りに震える手で強く握り締める。
そのまま潰して破壊しようと思ったが、すんでで思い留まった。
これこそ、動かぬ証拠になる。
若宮を暴くための決定的な物的証拠に。
「何なんですか?」
わけの分からない状況に耐えかねた様子でそう繰り返した立原を「しっ」と人差し指を立てて制する。
机の上のペンケースからシャーペンを拝借すると、広げられていたノートの隅に書き殴った。
“たぶん、これは盗聴器”。
“詳しくは話せないけどこのことは誰にも言わないで欲しい”。
盗聴器なんてものものしい言葉を目にした立原は、はっと息をのんだ。
俺も実際に目にしたのなんて初めてだが、そうだと仮定すればつじつまが合うのだ。
若宮自身があの場に居合わせていたわけではない。
俺と羽衣の会話は、マスコットに仕込んだ盗聴器で聞いて把握していたのだろう。