消して、奪って、きみだけを
やや気圧されていた様子だった立原は口をつぐんだまま、盗聴器を俺の手から取った。
慎重に眺めたあと、何やら裏側にボタンを見つけたようでそっと押した。
すると、明滅していた赤いランプが消える。
「……あ」
どうやらこれでオフにできたようだった。
会話が筒抜けになることを危惧して筆談をする必要もなくなり、咳払いをしつつシャーペンを置く。
「とにかく、そういうことで頼む。急に悪かったな。はさみも助かった」
その手から盗聴器を取り返してそう言うと、マスコットや綿の残骸を回収する。
立原が疑問を呈するように俺を見上げた。
「どうしてわざわざわたしのところに来たの?」
「教室にはあいつがいるから」
若宮の目につくところでこんなことできるわけがなかった。
追い詰めて化けの皮を剥がすせっかくのチャンスをふいにするどころじゃない。
「あいつって?」
「若宮。文化祭前にカフェで会ったやつ」
そう言うと、目を見張った立原は俺の手にある桜色のくまと盗聴器を驚愕したように見やる。
「じゃあ、まさかそれ桜木さんの……」
さすがにおいそれとは頷けなくて、かと言って否定するのも白々しくて、口をつぐむと沈黙が肯定になってしまった。
信じられない、とでも言いたげな立原にあれこれ追及される前に言っておく。
「あんまり首突っ込まない方がいい。それ以上は聞かれても俺も答えねぇからな。あいつに関わると、おまえまで利用されかねない」
危機感を示すようにはっきりと線引きする。
どのような形になるかは予想もできないが、また誰かが傷つくのは目に見えていた。
ふいにこのことを知ってしまったばかりに、立原までもがあいつの敵として標的にされたらたまらない。
「そんなもの……さすがに異常でしょう。桜木さんは気づいてるの? 盗聴器だけじゃなく、彼のそんな本性に」
「いや、羽衣はそれでも信じたがってる。色々あって……ひと筋縄じゃいかねぇんだよ」
とにかく危うくてはらはらする。
記憶のことがなくても、羽衣の優しさや罪悪感はあいつに利用され、そのいびつな想いの餌食になっていたかもしれない。
恋というより愛で、愛というより執着にほかならないが、若宮自身に自覚がなさそうなのが余計たちが悪かった。
それが“純愛”だと正当化された世界に、羽衣が引きずり込まれてしまう。
「だから、俺が守らねぇと。やっと証拠も掴めたし」
手の中の盗聴器をいっそう強く握り締めた。
これを突きつければ、若宮が信用ならない危険人物であることを証明できる。
「……じゃあ、わたしもそうしたい」
予想外の言葉に耳を疑った。
聞き間違いかと思ったが、立原の表情は真剣に引き締められたまま。
「あなたがそうなら、わたしも桜木さんを守る」
「ばか、俺の話聞いてたか? 巻き込まれたらどうなるか……」
「分かるけど、こんな話聞いて放っておけない」
本当に立原の言葉なのかとまたしても驚き、まじまじと見返してしまう。
他人に無関心で、感情の起伏がなく、何ごとにも熱がなくて、誰も信用できないと言っていた立原が、まさかそんなことを言うなんて。