消して、奪って、きみだけを

「あなたのことだから、もう彼に警戒されてるんでしょう? そんな篠崎くんが唯一の物証を持ってるなんて危険です」

「それは、まあ……確かにそうだけど」

「だから、わたしが預かる。わたしならノーマークだろうから」

 差し出されたてのひらと、手元の盗聴器を見比べて逡巡(しゅんじゅん)してしまう。

 確かに若宮なら、既に俺が盗聴器に気づいていることに勘づいていてもおかしくない。

 直接あんなふうに威勢よく“化けの皮を剥ぐ”と宣言した俺を警戒していないはずもなければ、易々とやられるとは思えなかった。

 ────次のターゲットはあんたかも。

 いつかの日和の声がまた耳元で聞こえると、心臓がナーバスなリズムを刻む。

 最後のお楽しみとして泳がせていたけれど、盗聴器のことを掴まれたと知って一気に潰しにかかってくるかもしれない。

 しかし、立原に預けておくのも同じくらい危険だ。
 若宮がそれを嗅ぎつけたら、立原を放っておくはずがない。

 盗聴器そのものを持っていたのでは、もしそのことがバレたときに言い訳のしようもないだろう。

 そんなリスクに晒すことはできない。
 やっぱり立原を巻き込みたくはなかった。

「……いや、気持ちだけ受け取っておく。ありがとな」

 この物証は爆弾だ。
 持っている限り危険がついて回るし、爆発までの秒読みも既に始まっている。

 猶予(ゆうよ)はない。
 潰される前に、あいつを暴くしかない。

「……そう」

 立原は残念そうに目を伏せ、手を引っ込める。
 それを見て、たまらず眉を下げつつ笑った。

「おまえを信じてないわけじゃないからな。ただ、心配なんだよ」

「……心配なのは桜木さんじゃないの」

「羽衣のこともだけど、おまえのことも」

 そう言うと、立原の瞳が揺れる。
 盗聴器やくまの残骸を手に、今度こそきびすを返した。

「じゃ。……このことは羽衣にも黙っててくれ」



     ◇



 バルコニーから教室へ戻ると、机の上に鞄を置いた。

 くまを繋いでいたボールチェーンと鞄に取り残された寂しげなうさぎを見て眉を寄せる。
 涼は急にどうしてあんなことをしたんだろう。

 あのマスコットを叶人くんからもらったという話を、彼としたのかどうかは覚えがない。
 自分の記憶があてにならないことが分かったから、覚えがなくても実際にはしたかもしれない。

 そうだとしたら、いや、そうでなくてもさすがにひどい。
 大切なものだったのに、勝手に引きちぎってどこかへ持っていってしまうなんて。

(叶人くんがせっかくくれたものなのに……)
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