消して、奪って、きみだけを

「……文化祭前、カフェでも会っただろ」

「そうだけど、あのときのあなたは猫被ってたでしょう。いまとは別人」

 その言葉に息をつく。
 息をついたのか思わず笑ったのか、自分でも分からなかった。

「初対面のふりしないといけなかったしね」

 話しているうちにカフェでのひと幕が思い出され、今度こそため息がこぼれる。

「あのとき、確かに“羽衣の前で彼と一緒にいるところを見せてあげて”とは言ったけど、まさか店にまで入ってくるとは思わなかったよ」

「……まだ言うの? もうメッセージでも聞いたよ。もっと感謝してくれてもいいくらい」

 淡々としている美怜の顔に、うんざりしたような表情が浮かぶ。
 それもやっぱり薄くて、長い付き合いの僕でなければ見落としそうなものだった。

「あの子から彼を遠ざけてるのも、叶人がいないところであの子を見張ってるのもわたしだよ。文化祭の衣装のときも……いい仕事したでしょう」

 まるで褒められたい子どもみたいに得意気な言い方だった。
 それについては異論もなく、素直に認めるほかない。

「そうだね、助かったよ」

 羽衣の衣装をずたずたに切り裂いたのは、ほかでもない美怜だ。

 その上で都合よくあんな写真を提示して追い詰めた美怜だったが、夏目さんは微塵(みじん)も疑っていなかった。

 それはそうだ。
 彼女には夏目さんを(おとしい)れる動機がない。

 だからこそ、あのときは僕に代わって美怜に舞台へ立ってもらったわけだ。

 女子更衣室で起きた事件だから、画策(かくさく)した僕に疑いが及ぶこともない。
 篠崎くんや夏目さん自身も、疑ったところで証明できない。

 結果として最高の結末を迎えた。

 羽衣と夏目さんは断絶し、信頼や関係が回復する気配もない。
 これで、余計な感情を煽る邪魔者はひとりいなくなった。

 本当の意味で羽衣を理解し、羽衣と分かり合えるのは僕しかいないのに、どうして気づいてくれないんだろう。

 その痛みも苦しさも過去も、僕なら余さず愛してあげられるのに、愛されるべきなのに、その優しさが自分自身を縛りつける。

 僕はただ、それをほどいてあげたいだけ。

(早くここまで()ちてきたらいいのに……)

 そうしたら、僕が受け止めてあげる。
 周りに誰もいなくなって、誰からも必要とされなくなって、ひとりぼっちになったら────きっと僕だけを求めてくれるだろうから。

「それより、篠崎くんが気づいたよ」

 おもむろに言った美怜が、盗聴器、と続ける。
 身体じゅうの熱が冷めていき、悠然と瞬いた。

「……みたいだね」
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