消して、奪って、きみだけを

「尻尾掴まれるなんて、抜け目のないあなたにしては珍しい」

 掴まれたというより、掴ませたようなものだ。
 しかし、それ自体は衝動的なものだった。

 我慢ならなくなったせいだ。
 僕の知らないところで紡がれる時間も、流れる暗黙の空気感も、ほかの誰かとの繋がりが耐えがたい。

 ひとりにしないで。
 どこにも行かないで。
 そう言えたら楽なのに────。

「そんなに焦ってた? そうまでして、あの子のすべてを把握してたいの?」

 彼女の声色に(おり)のようなものが混ざる。

「さすがにやりすぎじゃない?」

「……舐めないでくれる? こんなものがなくたって羽衣のことならぜんぶ分かってる」

 そんな道徳や倫理観を持ち合わせていて、真っ当に(とが)めてくるなんて意外で少し驚いてしまう。
 僕だっていたずらに羽衣のプライベートを害したいわけじゃない。
 
「でも、いまは必要だったんだよ。余計なことを吹き込まれたら面倒だからね」

 どんな密談をしているのか先んじて把握しておけば、消さなければならないノイズとそうでないものをスムーズに選り分けられる。

「……そう」

 美怜は納得したのかしていないのか、盗聴器のことをそれ以上言及することはなかった。

「……回収はできなかった。ノーマークのわたしは安全だって言ったのに、渡してくれなかった」

 伏し目がちな瞳が陰り、憂いを帯びる。

 とはいえ、さすがに僕たちの繋がりまで看破(かんぱ)しているわけではないだろう。

 美怜にも疑惑を向けているとは思えないし、実直で熱い彼のことだから、彼女に(るい)が及ぶことを危惧したといったところか。

「ふーん……篠崎くんらしい」

 フェンスに腕を乗せ、呟いた声は自分でも驚くくらい退屈そうに冷めていた。
 美怜が不思議そうな目を向けてくる。

「焦らないの?」

「どうして」

「だって、証拠だって……。きっと彼女の前であなたを断罪するつもりだよ」

 その声色はいつも通り熱がなく、実際にはどのくらいの焦燥を覚えているのか分かりづらい。
 僕の行く末を案じているのか、単に疑問を(てい)しているのか。

「いいの? 彼女にあんなもの見せられても」

 ふ、と思わず冷ややかに笑った。

「いいよ、意味ないから」

 立ち並ぶ建物のずっと向こうに霞む山の稜線(りょうせん)を眺めたまま目を細めた。
 何だかここまで酸素が薄いような気がしてくる。

「……どういうこと?」

「羽衣に届かなければ“証拠”になんてならないってこと」
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