消して、奪って、きみだけを
彼女の前で僕にその物証を突きつけることで、僕の所業を暴くことで、傷つくのはほかでもない羽衣だ。
あの子は優しいから、疑うことに耐えられない。
きっと、事実を知ったって“自分のせい”だとすべて引き受けようとするはず。
好きな子を守りたい健気な心意気は買うけれど、彼が握り締めているのは諸刃の剣。
化けの皮を剥がす、なんて、独りよがりの凶暴な正義感は羽衣を傷つけるだけなのに。
僕は、傷も痛みも羽衣に負わせたくない。残したくない。
余計な感情で羽衣を苦しませたくない。
だから、消すことで癒してあげているのに、責められる筋合いなんてどこにある?
「ともかく、ありがとう。今回も助かった」
その感謝自体は本心なのだが、美怜は眉を寄せて難解な表情をする。
「……分かってると思うけど、わたしは別に善意で動いてるわけじゃない。叶人のあの子への想いや理想は、むしろ理解に苦しむよ」
「分かってる。別にどう思ってくれたって構わないよ」
美怜に共感や許可を求めているわけでもあるまいし、彼女でなくとも羽衣以外の人間からのそんなものはいらない。
いっそ世界を閉ざしてしまいたいくらい。
それから、ふと美怜の足に目をやった。
ある意味で当たり前と言えば当たり前だが、治る気配はまったくない。
「僕に言わせれば、彼を繋ぎ止めるために嘘をつき続けて、挙句、自ら自分の身体を傷つけてるきみの方が理解できない」
彼女もまた僕と同じように、最初から共感など不要だと言わんばかりに平然と頷いた。
「まあ……お互いさまだね。叶人は彼が邪魔で、わたしはあの子が邪魔。それだけのことでしょう」
「じゃあ、もっと彼の足止め頑張って。羽衣に近づけないように。……じゃないと、最悪の選択をすることになる」
冷ややかに言うと、息をついて退屈な空を仰ぐ。
別に美怜への脅しでも何でもなく、単なる可能性の話だ。
僕が“忘れて欲しい”と思う記憶と、羽衣を苦しませないために取り除くべきノイズ────その境界もまた、生と死の境目くらい曖昧になりつつある。
羽衣の苦痛を和らげたい。
自責や感情の揺らぎで思い詰めないよう、守ってあげたい。
僕を地獄から救ってくれたみたいに、今度は僕が羽衣を助けたい。
その思いは一切揺らぐことなく変わらないのに、“最悪の選択”が誰にとってのものなのか、いまの僕は答えられなくなっていた。