消して、奪って、きみだけを
●第6章 シュガー・メルト・リグレット

 翌朝、昇降口で羽衣と若宮が来るのを立原と待ち伏せていた。

 荷物を持つために立原と一緒に登校したが、盗聴器のことを知る証人として立ち会ってもらった方がいいと思った。

 若宮に目をつけられる可能性はあるが、その前に暴いてこの身勝手な茶番を終わらせてやる。

 ほどなくして、ふたりは現れた。

 何も知らずに幸せそうに笑っている羽衣を見て、自分の所業をひた隠しにして笑いかける若宮を見て、いっそう胸の内が(くすぶ)る。

「……若宮」

 行く手を阻むように歩み寄ると、俺を認めた若宮は昨日とちがって笑い返してきた。

 まるで俺に捕まることが分かりきっていたような不敵な笑みに一瞬戸惑う。

「おはよう、篠崎くん。血相変えてどうしたの?」

 不思議そうに尋ねてくる姿は白々しいものだが、本来、羽衣の前ではこの様を徹底していたはずだった。
 昨日は珍しく余裕を欠いていたようだが。

 羽衣もまた「涼?」と困惑している様子だった。
 記憶はきっと戻っていないままだろう。

「これが何だか分かるよな」

 俺はポケットからくまのマスコットと盗聴器を取り出し、若宮に突きつけてみせた。

「それ……!」

 先に反応したのは羽衣だった。
 はさみで切り裂いたせいでぼろぼろになってしまった桜色のくまを手に取る。

 若宮は口をつぐんだまま俺の手にある盗聴器を眺めていたが、ややあって視線をもたげた。
 まだ動じている様子もなく、次の言葉を慎重に待っているみたいだ。

「羽衣のマスコットの中に仕込まれてた。盗聴器だろ、これ」

 底の見えない双眸(そうぼう)を見据え、問い詰めた声は自然と険しくなる。
 義憤(ぎふん)私憤(しふん)か、感情がふつふつと低温で煮詰められていく。

「そのマスコットはおまえが羽衣にあげたものだ。仕込んだのもおまえなんだろ! このマスコットから盗聴器が出てきたところは立原も見てた」

 そう口にしてもなお若宮の顔色は変わらなかった。
 眉ひとつ動かさず、冷めたように見返してくる。

 間が沈黙に変わり、その沈黙がだんだんと降り積もっていった。
 かさむほど何だか妙な心地に(おちい)る。

 リミットより先に爆弾を投げつけたつもりだったのに、それは爆発することなく宙に浮いているようだった。

 覚悟を決めて、ようやく羽衣の前で若宮の悪行を晒した。
 日和の糾弾(きゅうだん)は届かなかったが、今回はちがう。

 盗聴器という物証がある以上「証拠でもあるの?」なんて小賢(こざか)しいとぼけ方もできないはずだ。

 ついに追い詰めた。
 そのはずなのに、なぜこんなに手応えが薄いんだろう。

「ひどい……」

 ややあってこぼされた、ひび割れたような羽衣の声にはっとした。
 くまを両手で握り締め、ひどく傷ついたように俺を捉えている。

「……羽衣?」

「これが大事なものだって、涼も知ってたんじゃないの……? なのに、こんな……」
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