消して、奪って、きみだけを

 それを聞いた若宮は満足そうに笑みを深め、拳を握り締める俺の手には逆にますます力が込もった。

 若宮が贈ったマスコットに盗聴器が入っていて、知り得ない会話の内容を知られていて、直後に羽衣の記憶まで消えて────。

 ここまで材料が揃っていれば、自ずと若宮が犯人だとたどり着く。

 しかし、客観的にはそうじゃない。
 その視点が完全に抜け落ちていた。

 いまの立原の言葉は正しい。
 それこそ過不足のない第三者の視点なのだ。

「……篠崎くん。きみはマスコットを羽衣の鞄から勝手に持ち去って、勝手に切って壊したんだよね。僕を疑う前に、羽衣に悪いとは思わなかったの?」

「ふざけんな……!」

 かっと頭に血が上った。
 どの口が、とたまらず踏み出しかけたとき、ふいに後ろから裾を引かれる。

 はっとして振り向くと、立原と目が合う。
 止められなければ、俺は苛立ちのままに若宮に掴みかかっていたかもしれない。

 自分の危うさを自覚し、とっさに羽衣を見たとき、悄然(しょうぜん)とうつむく姿に胸を貫かれた。

 危うさだけでなく浅はかさを映す鏡みたいで、たまらず顔を歪めると目を落とす。

 悔しくもどかしい(かたわ)ら、取り返しのつかないことをしてしまったような実体のない感覚が疼痛(とうつう)のように(さいな)んできた。

「……行こう、羽衣」

 若宮はそう言うと羽衣の背に手を添え、階段の方へと向かっていった。

 その後ろ姿を見て思う。
 俺はまだ客観的な視点が抜け落ちているままだった。

 こんな状況、傍目(はため)には俺が悪者でしかない。
 それは羽衣からしても同じことで、だからこそ信頼を失ったんだ。

「あの、わたし……」

 ややあって、立原が口を開く。
 感情の見えづらい薄い表情は相変わらずながら、どことなく惑っているように見えた。

 若宮への答えのことが気にかかっているのだろうか。

「……おまえのせいじゃねぇから気にすんな。むしろ、ああ言ってくれてよかった」

 嘘をついたり露骨(ろこつ)に俺を庇ったりすれば、敵と見なされて立原まであいつの毒牙(どくが)にかかるかもしれなかった。

 巻き込んでしまったとはいえ、これなら敵視するほどではないだろう。

「このあと、どうするの?」

 立原の問いかけに、手の中の盗聴器を見やった。

「そうだな……。放課後にでも一応、このことは先生に伝えとこうと思う」

 確かにこれ単体では、若宮の所業を暴く証拠能力としては不足だった。

 しかし、思惑は外れてしまったが、まったくもってすべてが無駄だったわけじゃない。
 無用の長物(ちょうぶつ)とは言いきれない。

「俺の前では強気でいられたかもしれねぇけど、大ごとになればどうだろうな。警察に届け出ることになるかもしれねぇし」
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