消して、奪って、きみだけを

 ────叶人くんの仕業だよ!

 耳の奥で日和の叫び声が蘇ってこだまする。

 ────そのマスコットはおまえが羽衣にあげたものだ。仕込んだのもおまえなんだろ!

 涼の声と重なって、歪んだ残響をたわませながら絡みつくように胸を締めつけてくる。
 あまりにきつく締め上げられ、ちぎれていくみたいに痛かった。

「……そんなに落ち込まないで、羽衣」

 叶人くんの優しい声にじわじわとほどけていく。
 理不尽なことを誰に何度言われても怒らず、いつだってわたしを(いた)わってくれる。

「でも……せっかく叶人くんがくれたものなのに」

「大丈夫、気にしなくていいよ。いくらでもあげるって言ったでしょ」

 そう言って柔らかく微笑みかけてくれた。
 叶人くんだって涼に腹を立ててもおかしくないのに、本当にどこまで優しいんだろう。

 涼に()いても、マスコットをぼろぼろにされた上にあんなにひどいことを言われても、嫌わないでいてくれるのはわたしの友だちだからなのだろうか。

 申し訳ないような気がしてくる。
 わたしにとって涼は大事な友だちだったけれど、そのことが彼を傷つけているのなら心苦しくてならない。

「……涼はどうしてあんなこと言ったのかな」

 思わずぽつりとこぼすと、叶人くんを(かえり)みる。

「涼も本当は悪い人じゃないんだよ。ずっと叶人くんのこと誤解してるだけで……。わたしのせいで、叶人くんに嫌な思いさせてたらごめんね」

 彼は自分よりわたしを優先してばかりで、本心すらその笑顔で覆い隠してしまうから、なかなか目を向けることもできずにいた。

 見えないところで摩耗(まもう)していたら、見過ごすべきじゃない。

「羽衣のせいじゃないよ」

 少し慌てたように言うと、ふわりと撫でるように頭に手を載せられる。

 触れた境目から溶けていくみたいにあたたかい。
 その温もりで痛みが和らいでいくような気がした。

「何もかも背負おうとしないで。羽衣が苦しむ必要なんてないから……。僕が楽にしてあげる」



     ◆



 昼休み、購買から戻ろうとしたところで妙なものを見た。
 階段を下りてきて、外の渡り廊下へと出ていった若宮の姿。

 渡り廊下の先は旧校舎に続いているが、普通なら用なんてないはずだ。
 何をしているのか、気にかかって思わず目で追う。

 若宮は旧校舎には向かわず、途中で渡り廊下から逸れた。
 手にしていたローファーに履き替えるとそのままどこかへ行ってしまう。

 その姿が見切れた瞬間には、反射的に俺も校舎から飛び出していた。
 上履きのままコンクリートに下りてあとを追う。

 角を曲がったとき、十数メートル先に若宮が見えて心臓が跳ねる。

 既に足を止めていることに気がついて、慌てて身体を引っ込めると校舎の外壁を背に死角に隠れる。
 危なかった。

(何してるんだ……?)
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