消して、奪って、きみだけを
思えば、最初からおかしかった。
若宮が転校してきてから、タイミングよく俺に絡んできて、都合よく拘束されるようになったのは、やっぱり偶然じゃなかったんだ。
────篠崎くん以外に頼れる人がいないの。
────この人は信用できるって直感的に確信したんです。
最初に言っていたことも、きっと本心ではなかったのだろう。
端から若宮のために動いていたなら、足止めか俺を羽衣から遠ざけることが目的だったにちがいない。
怪我そのものはこの目で見た以上、本物で間違いないが、俺が怪我をさせたというのは嘘だったんじゃないだろうか。
掘り返してみると、疑惑の欠片が抱えきれないほどごろごろ見つかった。
俺はまんまと騙され、利用され、踊らされていたのだ。
衝撃と怒りと虚しさで感情を見失ってしまう。
足を浸していた波が強く打ち寄せて荒れ、掬われたように足場が溶け去っていった。
隣のクラスの教室へ入ると、一直線に立原のもとへ向かう。
いつもと同じメロンパンとレモンティーを机の上に置いてやった。
「……おまえの足になるのはこれで最後だから」
線を引くように鋭く言うと、こちらをまっすぐ見上げていた立原の目が揺れる。
「どうして……」
諸々が俺に露呈したことは察せたはずだ。
動揺しているのは、だからじゃないだろうか。
「その怪我も本当は俺のせいじゃないんだろ? 最初からぜんぶ嘘だった。それで、思い通りに動く俺をずっと裏であいつと笑ってたわけか」
ふつふつと静かに怒りが滾り、自分でも意外なくらい嫌な言い方になった。
しかし、守るべきだと思っていた相手に本当はずっと裏切られていたと判明したいま、その張本人と対峙したらこらえきれなかった。
さっと色をなくした立原が慌てたように首を横に振る。
普段はあれほど無機質なのに、いまばかりは焦っているのか動揺を隠しきれない様子だ。
「それはちがいます。嘘は……確かについたけど、笑ってなんか」
「やっぱり、若宮と繋がってんだ」
俺が信じるかどうかはさておき、何のことかととぼければまだ逃げ道はあったのに。
そういう意味では誠実なのか、あるいはある程度正直に振る舞えばまだ信用を取り戻せると思っているのか。
どちらにしろ、もう信じられない。
あの若宮とグルだったのだから信じる余地もない。
「よかったな、俺が単純で。でももう騙されねぇから」
「待って、聞いて。わたし────」
「もう話しかけんな!」
立ち上がった立原に掴まれた腕を、振りほどいて睨みつける。
ばかにするな、と思った。
これ以上、こいつらのてのひらの上なんてごめんだ。
大きく目を見張っていた立原は愕然とした様子でうつむいた。
絹みたいな長い髪が肩からこぼれ落ち、その顔を覆っていく。
消沈して立ち尽くす立原に背を向け、俺は教室をあとにした。