消して、奪って、きみだけを
廊下へ出るなり日和に手招かれ、端の長椅子のところで落ち合う。
座面に手をついて座る日和は怪訝そうにこちらを見上げていた。
「ねぇ、今朝ちょっと騒ぎになってたみたいだけど何があったの?」
若宮と対峙していた場面をどこかで目撃していたらしい。
苦くて痛い感情ごと蘇ってきてついため息をこぼしつつ、一から日和に事情を話した。
「……なるほど。見事にしてやられたね」
マスコットや盗聴器のことだけでなく、立原が若宮と繋がっていたことまで伝えると、日和は驚いたように目を見張ってから重たげな苦笑をたたえる。
「羽衣の中ではあんたが悪者になった。あたしのときと同じく嵌められたんだよね」
過ぎたことだと一旦は受け入れているのか、口調はさっぱりとしていた。
しかし、その通りだろう。
無断で大切なものを壊した挙句、若宮を糾弾して責めた俺のことを見る羽衣の目が頭から離れない。
失望したように深く傷ついたあんな表情を、俺がさせてしまうとは思わなかった。
なぜ信じてくれないのか。
なぜ届かないのか。
それだって若宮のせいだからいっそう悔しいし、腹が立つし、もどかしい。
「……盗聴器自体、そもそも罠だったのかな。それとも、暴いてやろうって俺の思惑を利用されたのか」
ロジックで論破されたこともあり、確かに俺が冷静じゃなかったことは認めざるを得ない。
頭に血が上っていた。
どこまでが計算で、どこまでが想定外だったんだろう。
掴んだと思っていた尻尾は、いつの間にか切り離されていた。
俺はわずかに追い詰めることすらできていなかったのだろうか。
「どっちにしても、あいつは逃げおおせたわけでしょ。あの子がスパイだって分かっただけでも収穫じゃん」
「まあ……それはそうだけどさ」
今朝の出来事も立原の正体も、どう受け止めればいいのかまだ感情の整理がつかない。
苛立ちや虚しさや無力感や悲しみや、くすんだ色が胸の内を塗り潰していくだけ。
立原と相対して腹が立っていたのに爆発しなかったのは、そのせいもあるかもしれない。
突き放しはしたものの、何より自分への失望の方が大きくて必要以上に責める気力も湧いてこなかった。
「てか、そうなると……衣装の実行犯はあの子だったってことだよね」
「だろうな」
十中八九そうだろう。
女子更衣室を兼ねていた隣の教室で若宮が手を出すことは不可能でも、立原ならば簡単なことだ。
────夏目さんが犯人でしょう。
────わたし、見ました。
そう証言したのも、日和を嵌めるためでしかない。
若宮の思惑の片棒を担いでいたということになる。