消して、奪って、きみだけを
「でも、盗聴器のこと問い詰めたのは羽衣も聞いてたんでしょ? さすがに叶人くんの信用も地に落ちたんじゃないの」
その言葉にゆるりと首を横に振る。
「信じてくれた感じじゃなかった。つか、混乱してて……伝わってるかどうか。俺があいつを悪く言ったみたいな印象の方が強かったんだと思う」
「マジで……? それは最悪な展開かも」
「しかも、この記憶は消さねぇと思う。俺を悪者にしといた方があいつにとっても好都合だし」
羽衣の中で俺の印象は最悪で、信用も失墜して悪者のまま────。
今回ばかりはなかったことになればいいとさえ願ってしまう。
しかし本来、そう都合よく逃げることなんか許されない。
頭から離れない羽衣の目も、この心に残る自己嫌悪も、俺の選択の結果でしかないのだ。
傷ついても転んでも、立ち上がるからこそ乗り越えていける。
こんなときにだけあいつの身勝手を肯定するわけにいかない。
向き合うしかないだろう。
それでも俺は、羽衣を失いたくないから。
「うーん……手強いね。そんな能力がある上にスパイとしてあの子まで使ってたなんて。抜け目ないし、とことん貪欲だわ」
いっそ感心するべく呆れたように言った日和は天井を仰いだ。
どう動いても八方塞がりに追い込まれ、手も足も出ないまま詰んでしまいそうで、視界が暗くなったような錯覚を覚える。
羽衣を守りたいと、危険なあいつの手から逃がしたいと思っていた。
しかし、どう太刀打ちすれば敵う相手なんだろう。
出し抜こうと、動こうとすればするほど、袋小路に誘導されているような気がしてくる。
どれだけあがいたところで、記憶を消されてしまえばそれまで。
俺にとってマイナスの記憶ばかり残されて、羽衣を傷つけるだけの存在に仕立て上げられる。
「それにしても、何であの子は叶人くんに協力するのかな? どういう関係?」
ふと思いついたように日和が口にする。
確かにそれもそうだ。
転校してきてから日の浅いあいつが、クラスすらちがう立原と接点なんてどこであったんだろう。
どう知り合い、どう手を組んだのだろう。
「弱みでも握られて脅されてるとか?」
「若宮ならありうるな。……けど、別に怯えてるようには見えなかったけど」
感情や表情が薄い立原ではあるが、若宮と相見えても特段態度が変わった様子はなかったように思う。
大人しかったと言えばそうだが、それはもともとだし、どちらかと言えば繋がりがバレないよう息を潜めていたのではないだろうか。