消して、奪って、きみだけを
「まあ、もういいよ。関係ねぇことだ」
「だね。あの子に関しては、関わらなければいいだけだし」
どんな手を使ったって、若宮と立原がグルだという事実を掴んだ俺にはもう通用しない。
近づかなければ立原から情報が漏れることもない。
「ただ、これで終わりとは思えないよね。あたしのときより、何ていうか……地味?」
言いたいことは分かる。
以前、日和が危惧していたように若宮にとって俺は宿敵のような存在だろう。
だからこそ、日和のときのように羽衣と断絶するよう仕向けることはもはや必然。
マスコットや盗聴器の件で俺たちがすれ違うように誘導することには成功しているが、身構えていたよりだいぶスケールが小さい。
『辛いよね、きみの立場……いまとなっては、友だちだから羽衣のそばにいられるわけだし。きみにはその関係を守り続けるしかない。残酷だよね』
『……あ?』
『でもね、これがあるべき形なんだよ。あの頃から決まってた。羽衣の隣にいるべきは僕だ。きみはただの“代わり”』
ふいに若宮との会話が蘇ってくる。
『僕がいない間、羽衣の孤独を埋めてくれてたことには感謝してる。でも、僕が戻った以上もう必要ない。きみの役目はおしまい』
それは、俺の立場を潰す宣言にほかならないだろう。
俺が自主的に身を引いて羽衣から離れないのなら、手段を選ばず関係を壊すという。
あそこまで挑発してきたあいつが、果たしてこの程度で満足するだろうか。
「……そうだな。今朝のことでますます反感買ってそうだし」
「もうひと荒れしたって不思議じゃないよね。気をつけなよ?」
◇
体育の移動中、着替えを持って階段を下りていくと、途中で見覚えのある後ろ姿が目に入った。
足を引きずるようにしてゆっくりと歩いている美怜ちゃんだ。
よっぽど痛むのか、以前よりも何だか歩みが重たげで動きも鈍って見える。
そのせいか背中まで脆く弱っているように感じられて、反射的に踏み出していた。
「大丈夫? 荷物、持とうか?」
急いで追いつくと、そう声をかける。
美怜ちゃんは足を止めたものの、顔を上げることもわたしを見ることもしない。
「……いらない」
差し出した手を疎むように押し返されてしまい、戸惑ったままその横顔を見る。
普段よりいっそうもの憂げで、影との境界がぼやけていた。
「美怜ちゃん……?」
「そんな必要ない。もう、意味なくなっちゃった」
微かに笑っているように見えて、その言葉にますます戸惑ってしまう。
泣きそうなようにも見えるけれど、笑っているとしたら自嘲気味で儚い表情だ。
明らかに様子がおかしいのに、どう声をかけていいものか迷うばかりで言葉が見つからない。
どうしたんだろう。
何があったんだろう。