消して、奪って、きみだけを
美怜ちゃんの歪めていた顔が、怪訝そうな表情へと変わっていく。
彼女がこんなに表情豊かだったということも、この瞬間まで知らなかった。
「なに、言ってるんですか?」
理解できない、とその瞳まで物語っているけれど、わたしは冗談のつもりなんてなかった。
ただ、たまらなくなったのだ。
わたしのせいなら、なおさらこのまま放っておけない。
どうして急に本当のことを打ち明けてくれたのか、どうしてこんなに動揺して余裕を失っているのか、分からないけれどわたしにできることをしたかった。
心を許せる相手も、寄りかかれる柱も多い方がいい────それは美怜ちゃんにだって言えることだから。
ひとを縛りつけるために嘘なんてつかなくても、簡単に離れたりしないと信じて欲しい。
「……あなたがそんなことを言い出す意味が分からない。同情ですか? それとも、偽善?」
「ちがうよ、そんなんじゃ……」
「ただの自己満足でしょう? わたしには、あなたのことなんて信じられない」
わたしの言葉に蓋をするように、冷淡に言い放たれる。
不信感に満ちたその瞳は取りつく島もないくらいの拒絶を表していた。
気圧されて何も言えなくなると、彼女は息をついて前を向く。
ここではないどこか遠くを眺めるような眼差しで、ひとりごとみたいに呟いた。
「……あなたが羨ましい。何の苦労もしないで、愛されてるだけのあなたが」
破片が抜け落ちても埋まらない風穴に冷たい風が吹き抜けていく。
口をつぐんでうつむくことしかできなかった。
「……わたしにもあんな能力があったらいいのに」
ふとこぼされたひとことに思わず顔をもたげる。
そのときには既に目の前を横切っていくところで、艶やかな髪が寂しげな香りを残していった。
(能力って……?)
いったい何の話だろう。
戸惑ってしまうけれど、追いかけて尋ねる勇気はさすがに持ち合わせていなかった。
◆
「羽衣」
ひとりになったタイミングを見計らい、意を決して声をかける。
振り向いてもくれないか、顔を見るなり避けられるんじゃないかと覚悟していたものの、羽衣は足を止めてくれたどころか、俺を見て頬を綻ばせた。
「どうしたの?」
意表を突かれたというか、困惑して一瞬固まってしまう。
今朝のことがあった上での反応としてはあまりにそぐわない。
戸惑いながらも慎重に切り出した。
「おまえに謝りたくて……。俺があいつを疑ってることと、おまえの大事なものを壊すことは別問題だよな。悪い、勝手な真似して」
若宮が悪だから暴きたいのも、羽衣をその危険から守りたいのも俺の正義感や信念でしかない。
それが正論だとしても、羽衣を傷つける免罪符にはなり得ないのだ。
傷つけてまで守りたい、なんて羽衣の気持ちを無視し始めたら、あいつと同類に成り下がってしまう。
そもそも傷つけている時点で守れてすらいないというのに。