消して、奪って、きみだけを
「そういうことだから警戒しろよ。思い出したこととか色々勘づかれたらまた振り出しに戻るし、記憶も守らねぇと」
「大丈夫だよ、涼がいてくれれば」
頬を綻ばせて言う羽衣の声色に迷いはなかった。
滲まされた確かな信頼にくすぐったくなって、微妙な表情のまま口を曲げる。
「……ったく、調子いいな。おまえも気をつけるんだよ」
その額を軽く小突くと、羽衣の笑みがふと強張った。
困惑したように視線をさまよわせ、そっと額に手を当てる。
「どうした? 悪い、力強かったか?」
「……ううん、そうじゃなくて。分かってるよ、ありがとう」
教室へ戻る羽衣を見届け、俺はその足で一度昇降口へと向かった。
盗聴器を届け出るなら、今朝のうちにさっさとそうしておいた方が確実だった。
そうしなかったのは、羽衣本人を置き去りにして勝手に突き進むような真似をもうしたくなかったからだ。
まずは謝って、事情を説明するのが先だと思った。
しかし、改めて危機感が背中に張りつき、悠長に構えていられなくなった。
周到で抜け目のない若宮のことを思えば、裏庭を探して盗聴器が見つからなかった時点で、ほかにあたりをつけて捜索の手を伸ばしていてもおかしくない。
俺が持っていること自体は知っているわけだし、目を盗んで俺のロッカーや靴箱を探るはずだ。
隠し場所が安直すぎた。
やっぱり、肌身離さず持っていればよかった。
しかし、電源を切ったつもりでも、本当に機能が止まっている保証はない。
スイッチを切ってみせたのは立原だし、油断させるために電源が切れたと思い込まされているだけだったかもしれない。
それなら、持ち歩いていたら羽衣との会話まで拾われているところだった。
その方がまずいだろう。
焦燥を覚えながら靴箱を開けると、スニーカーの横に置いてあったはずの機械が消えていた。
思わず詰めていた息がこぼれ落ちる。
(やられた……)
念のためスニーカーをどかして確かめてみるが、やっぱり影も形もない。
既に回収されたあとのようだった。
詰めが甘かった自分に苛立ち、たまらず手に力が込もる。
盗聴器の実物が手元から消えた以上、外部から若宮をおさえ込む作戦は現実的ではなくなった。
それでも、落胆はあるが絶望とまではいかない。
一度こうして大ごとになりかけたことからして、同じ手を使うことはないだろう。
少なくともその点は安心できる。
何より羽衣の記憶が一部戻り、俺の言葉も届いたということが大きかった。
希望はある。
これなら、立ち向かっていける。一緒に。
ただ解せないのはやっぱり、あいつが今朝の記憶を消したこと。
どういう意図でそうしたんだろう。