消して、奪って、きみだけを

 水面みたいに揺らぐ不鮮明な光景は、放課後の教室だろうか。
 影のような人の姿がふたり見える。

 ────ずっと好きだったのは本当かもしれないけど、わざわざ転校までしてくるなんてちょっと度を越してる気がする。

 ────つか、その告白自体が嘘かもしれねぇだろ。

 ────それこそ復讐が目的なら、好きだって言って油断させるため。近づいても警戒されないためにそう言ったのかもしれない。どっちにしても簡単に信用するべきじゃねぇよ。

 日和の声に涼の声が続いた。
 不安定だった記憶が徐々に彩度を取り戻し、鮮明になってくる。

(そうだ、そういえば……)

 そんなふうにふたりはずっと心配してくれていたし、特に涼は何度もそうやって警告してくれていた。

 そのとき抱いた不安がいま再燃したことで、唐突に記憶が戻ってきたのだろうか。

 忘れていたということは、きっと叶人くんが消したのだ。
 どうして彼はこの記憶を消す必要があったのだろう。

 涼の言うように、わたしに警戒されることが不本意で都合が悪かったから……?

(本当にそうなの?)

 簡単に信じるべきじゃない、そんな涼の鋭い言葉が重たくのしかかってくる。
 前提から覆していかなければならないのだろうか。

 涼の推測通り、高橋くんの件やグループワークの件、わたしを取り巻く不可解な事件のすべてに叶人くんが関わっているのだとしたら。

 ────本当に羨ましいよ。……妬ましいほど。

 彼が滲ませていた涼への敵対心のようなものは、単なるやきもちだなんてかわいいものじゃないんじゃないだろうか。

 ────悪いのは……心ない言葉ばかり口にする夏目さんだ。

 文化祭の日、衣装のことで糾弾された日和が、必死に否定しながら叶人くんの仕業だと叫んでいたことを思い出す。
 まさか、日和も……?

 叶人くんが自在にわたしの記憶を取捨選択できるのなら、価値観そのものに触れているようなもの。

 既成事実を作って、認識を歪ませて、そこまでしてわたしを手の中に閉じ込めておきたいということ?

 涼や日和の存在や叶人くん以外の人間関係が、わたしにとっての別の選択肢として存在していることが我慢ならないのかもしれない。

 そこまでしなければ、自分が“唯一”にならなければ、わたしが離れない保証を得られないくらい不安でたまらないのだろうか。

 もしそうだとしたら、できるだけ叶人くんの意に沿わないと。
 不安が募って接し方を決めかねていても、下手に拒んだりすれば涼たちに(るい)が及ぶかもしれない。

 わたしが傷つくだけならまだしも、またいわれもなく誰かが(おとしい)れられたりして傷つくのは耐えられない。
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