消して、奪って、きみだけを
「……羽衣?」
「あ、ごめん。ちょっとぼんやりしちゃって」
苦く笑って誤魔化し、改めて頷く。
「うん、大丈夫だよ。今週末なら空いてるし」
「本当? うれしい」
ふわりと叶人くんが頬を綻ばせた。
言葉通り無邪気な表情は、心のままを表しているみたいで純粋に愛しくなる。
彼のそばにいる選択は、涼たちを守るための義務がすべてというわけじゃなかった。
少しでも安心して欲しい。
その不安を和らげて、わたしはどこにも行かないということを堂々と信じられるように。
そして、これは願ってもみない機会になると思う。
いまは遠くに霞んで見えないわたしたちの過去に迫るチャンス。
抜け落ちた記憶を探り、ちゃんと知り直したい。
わたしと彼の間に起きた出来事のすべてを。
◇
「────ってことがあって、いま叶人くんが来てるんだけど……」
『ああ、聞いた聞いた。叶人くんから連絡もらって』
電話口の向こうでこともなげに母が言う。
週末、約束通り家へ来た叶人くんのことを一応伝えておこうと電話をかけたら、それよりも早く彼が連絡を入れておいてくれていたみたい。
いつの間にどこまで話したのか、驚くとともに何となくそわそわした。
『店の方にかかってきたんだけど……びっくりしたわ。まさかこの街に戻ってくるなんて』
母の実家は花屋を営んでいるのだけれど、祖母が倒れたことで、いまはひとまず母が代わりに切り盛りしていた。
同時に祖母の介護も兼ねているので、帰省したまま今週末も家へ帰ってはこないようだ。
それなら、尋ねるならいましかない。
母なら少なからずわたしたちの幼少期のことを知っているはず。
「ねぇ、お母さん。それってどういう意味……?」
まさか戻ってくるなんて────まるで何か嫌な思いをしたか、よくないことがあって引っ越していったみたいな言い方に思えた。
『…………』
電話口の向こうがしばらく静かになる。
普段は明朗でお喋りな母がそんなふうに押し黙るなんて、ただならぬ雰囲気に怯んでしまう。
『……あれは羽衣のせいじゃない』
電話が切れてしまったのではないかと不安になるほどの間を置いて、ややあって母が言った。
『あんたも叶人くんも何も悪くない』
その硬いナーバスな声色は、励ましてくれているというよりただ認識をなぞっているようだった。
言い知れない不安感で波紋が広がっていき、水面が波立つ。
『未だに引きずってるみたいだったけど、まさか叶人くん本人と再会するなんて……』
衝撃が抜けきらない様子でひとり呟く。
母の目から見ても、わたしがずっと罪悪感に苛まれてきたのは間違いないみたい。
『でも、よかったわ。昔みたいに仲良くやってるなら何より』
ふと母が気を緩めたように笑ったのが分かった。
水面の揺らぎは止まらず、翻された裾を掴むようにたまらず声を上げる。
「な、何があったの? わたしたちに」
『え?』
「その、わたし……どうしてか昔のこと忘れちゃってて」