消して、奪って、きみだけを
近所のスーパーで買いものを済ませると、家までの道をふたりで歩き出す。
何だか不思議な感じがした。
一緒に食材を選んだことも、こうして同じところへ帰るということも、まるで────。
「何か一緒に住んでるみたいじゃない?」
当たり前のように袋を持ってくれている叶人くんが、ふとうれしそうにこぼす。
思わず小さく笑った。
「わたしも同じこと考えてた」
「本当? いいよね、こういうの。昔は叶わなかったことが叶った感じ」
あの頃は厳格な門限があったし、どんなに一緒にいたいと思ったところでそれは叶わない願いだった。
特に、彼の家の方が厳しかったんじゃなかっただろうか。
日が沈みかけたこの道をふたりで歩いたからか、ふと唐突にそんなことを思い出した。
『帰りたくない……』
帰り際になると、いつも泣きそうな顔をしてわたしの裾を掴んでいた。
楽しい時間はいつもあっという間で、放課後は飛ぶように時間が過ぎた。
永遠の別れでもないのに、それくらい深刻な様子でそう言うから、そのたびにわたしはその手を握って笑い返していた。
『明日もいっしょにあそぼ。寝たらすぐ明日だよ』
『明日……』
『うん。また明日ね!』
微笑ましいような記憶の断片が手元に戻ってきた。
つい頬が緩んだとき、顔を上げたわたしの目にあるものが飛び込んでくる。
空き地に立つ“売地”の看板。
瞬いた次の瞬間、まっさらだったはずの土地に大きな一軒家がそびえていた。
(え? ここって……)
アンティークな凝ったデザインのフェンスに囲われた、お城みたいな洋風の家。
カランカラン、と涼しげなベルの音が耳の横を通り過ぎていった気がした。
ざわざわと胸が騒ぎ、締めつけられるように頭が痛くなってくる。
────どうしてそんなこと言うの!?
耳の奥をつんざいたのは、幼いわたしの声。
強い怒りをぶつけるようなそれがたゆんで歪み、ずきずきと頭痛が増していく。
スプーンで少しずつ、頭蓋骨を削り取られているみたい。
────わたし、知ってるんだから! 叶人くんが…………。
「……っ」
鳴り止まない声に血の気が引いて、たまらず頭をおさえながらしゃがみ込む。
「羽衣……? 羽衣!」
浅い呼吸を繰り返すわたしの傍らに叶人くんが屈んだ。
袋を取り落とし、背中に手を添えてくれたのが分かった。
「大丈夫?」
思わず瞑っていた目を開けると、お城みたいな家は消え去り、再び“売地”の看板が立っているだけの空き地に戻っていた。
「こ、こ……叶人くんの家があった、よね」
掠れて震える声を押し出し、彼の方を向く。
心配そうに見つめていたその瞳が揺れ、顔を強張らせたまま言葉を失っている様子だ。
ここは以前、間違いなく叶人くんの家だった。
自宅のある通りだけれど、普段は通らない方だから意識の外にあった。
記憶を失う前のわたしは覚えていたはずで、こんなに近いからこそ、離れ離れになっても思いを馳せる機会が絶えずあったことだろう。
それはいい意味ばかりじゃなくて、罪悪感を募らせるという意味でも。