消して、奪って、きみだけを
「……思い出したの?」
「そのこと、だけ」
そう答えた瞬間、頭蓋骨が砕けたような痛みが走って息をのむ。
その割れ目から記憶の沈む海の水があふれ出していった────。
『ねぇねぇ、羽衣ちゃん。叶人くんってどんな子?』
それは、わたしが彼と一緒に過ごすようになって随分経った頃だった。
ひとりぼっちじゃない彼を見て、以前より壁が低くなったと感じたのか、クラスメートたちも少しずつ彼に興味を持ち始めたのかもしれない。
そんなことを聞かれることがたびたびあった。
『変わってるよね。ぜんぜん笑わないし』
『やっぱりこわいの?』
何人かに囲まれたわたしは、うーん、ともったいぶって答える。
『たしかにちょっと変わってるかもしれないし、怒るとこわいけど……優しいよ。わたしは知ってる』
そう笑い返して一線を画していた。
わたしは本当の彼を知っている。
わたしだけが知っている。
そのことがうれしくて、この関係を壊されたくないがためのバリアを張り続けた。
そうやってささやかに自慢することで、保とうとしていたのだ。
誰にも渡したくなかった。
誰にも知られたくなかった。
“好き”の延長の幼い独占欲が、結果として彼に対する周囲のさらなる誤解を招いてしまっていたのだと思う。
それでも、友好的な何人かの子は彼と関わろうと積極的だった。
話しかけてみたり、放課後や休み時間に遊びに誘ったり────そのたびにわたしは不安に苛まれた。
彼にわたし以外の友だちができたら、どこか遠いところへ行ってしまうのではないか。
この関係が壊れて、わたしだけの彼でいなくなってしまうんじゃないか。
『公園、羽衣ちゃんも行く? かくれおにしようってさそわれて……』
『どうして?』
何となくうれしそうな彼を、不安や焦りを隠せないまま見つめる。
どうして、うれしそうなの?
どうして、わたしじゃなくてほかの子を選ぶの?
『わたしがいるのに……』
彼にはわたしだけが必要だったはずなのに。
わたししか知らないはずのあの笑顔も、もう特別じゃなくなるのだろうか。
『わたしがいれば十分でしょ?』
たまらず口にすると、彼は驚いたみたいだった。
その表情を見てはっとする。
無意識のうちにわがままをぶつけてしまったことに気づき、慌てて謝ろうとしたけれど、その前に彼が笑った。
『うん。僕には羽衣ちゃんしかいない』