消して、奪って、きみだけを

 はにかんだような笑顔がくすぐったくて、つい目を逸らしてしまう。
 怒るかと思ったのに、うれしそうだから戸惑っていた。

 クラスの子に遊びに誘われたことよりうれしそうで、そのことが自分を選んでくれたみたいでわたしもうれしくて、結局隠しきれずに笑い返した。

 それから、叶人くんは誰かに声をかけられても必要以上に応じることなく、遊びに誘われても毎回断るようになった。

 僕には羽衣ちゃんしかいない────その言葉を証明するみたいに。

 きっと、幼いながらにわたしの機微(きび)を敏感に察していたのだと思う。
 わたしが不安気な顔をするから、ほかの子たちとの関係を自ら切っていくようになった。

 わたしの周囲への発言と、彼自身のそんな行動が、彼の孤立にますます拍車(はくしゃ)をかけていた。

 そのことに気がついたのは、離れ離れになってから何年かあとのこと。

 ひとりぼっちに追い込む一端(いったん)を、わたしも担っていたのだと思い至ったときは呆然とした。

 当時はわたしのせいだなんて思いもしないで、無邪気な独占欲の犠牲にしてしまった。

 思えば、いまとは立場が真反対。
 あの頃はわたしの方が彼に対する独占欲をこじらせていたんだ。

 ああいう周囲への発言以外、直接何かをしたことはないけれど、結果として彼から人を遠ざけてしまっていた。
 そして、お互いにますます依存を深めていったのだ。

 この話を涼が聞いたら、それこそ復讐だとか言い出しそうだと思ってしまった。
 周りの人を排除して、自分にだけ心が向くように仕向けて、同じことを仕返しているのだとか。

 湧き上がった後悔と罪悪感で胸を締めつけられる。
 謝りたかったのは、このことなのだろうか……?

(まだ、何か大事なことを忘れてる気がする)

 不確かだけれど無視できない直感的な感覚だった。
 波が引いていくみたいに徐々に頭痛がおさまっていく。

「羽衣……。顔色、よくないけど」

「大丈夫、もう平気」

 やわく笑い、立ち上がった。
 案じるような表情で叶人くんもそうしたものの、何となく心配以上にわたしを窺っているような気配がある。

 実際にどこまで思い出したのか探りたいのだと思う。
 もう一度消すべきかどうか、見極めるために。

「ごめんね、心配かけちゃって。帰ろう」

 本当はいま思い出したことを打ち明けて謝りたかった。

 核ではなくても、このこともわたしの罪悪感として残り続けていたのは確かだから。
 勝手なわがままで彼を縛りつけていたことがひどく申し訳なくて心苦しい。

 だけど、思い出したということを下手に伝えてしまうと、また忘れさせられてしまうかもしれない。

 せっかく戻った記憶を守るためにも、ひとまず隠しておかないと。
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