消して、奪って、きみだけを

 想いがあふれて止まなくなりそうで頬を緩めた。

「……かわいい。もう手加減できないかも。あんなふうにキスされたら……止まれなくなるって言ったでしょ」

 再び口づけを落とすと、体温も熱もだんだん境界をなくすように混ざり合っていった。

 本当に待って欲しいなら待つし、本気で嫌なことは絶対にしない。
 一番大切なのはほかでもない羽衣自身だから。

 けれど、ふたり分のこれだけ高い熱なら、どうしようもないこの不安を溶かすことができるだろうか。

「……好きだよ、羽衣」

 たまらなくなるくらい、誰よりも好き。
 羽衣も、僕をずっと好きでいてくれるよね……?

 想いと、欲と、恐れと、色々な感情の込もったキスを繰り返していたら、僕もだんだん溺れているみたいに息ができなくなってきた。

 それでも、うっすらと涙の光るその瞳には、いまは僕しか映っていない。

 そのことがうれしくて、満たされて、綺麗な首筋から鎖骨にかけていくつも印を刻んだ。

 僕にはきみしかいない。
 きみにも、僕しかいなくなればいい────。



     ◇



 週明け、叶人くんの目を避けるようにバルコニーで涼と落ち合った。

 空に敷き詰められた灰色の雲が太陽を覆い隠し、どんよりと曇っている。
 そのせいで朝なのにあまり清々しさは感じられない。

「────っていう感じで……。記憶は消されてない、はず」

 叶人くんが泊まりにきた日に思い出した内容を、概ね涼にも伝えておく。

 実のところ、この前涼と話したとき、記憶を消すトリガーとなる叶人くんの行動を思い出していた。

 涼に軽く小突かれたのをきっかけに、それが“頭を撫でる”叶人くんの仕草を思い起こさせたのかもしれない。
 あるいは、手を伸ばされたときの感覚に既視感を覚えたのかも。

 だから、彼といる間は頭に触れられないようなるべく気をつけていた。
 髪を乾かしてもらったときは、警戒なんて半分以上忘れていた気もするけれど。

「……ってことは、週末にも会ってたんだ」

「えっ? あ、いや、別にそんな……」

 (とが)められているわけでは当然なくても、泊まりにきたことは何となく積極的には口にできなかった。

 彼とあったことを思い出したら、勝手に頬が熱くなってきて慌てる。
 どうして自分があそこまで大胆になれたのか、いま考えると気恥ずかしくて信じられない。

 だけど、あのときはただ“好き”という一心だった。
 不安そうなのが分かったから、わたしの気持ちが伝われば安心させられるんじゃないかと思って。

「……聞いてもねぇのに照れんなよ」

「て、照れてないよ」

 呆れたように息をついた涼は、気だるげにフェンスに腕を乗せた。

「でも、ちょっと意外だな。独占って意味ではおまえの方が先だったんだ」
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