消して、奪って、きみだけを
その声には意外なくらい正直に苛立ちが込められていた。
どうせまた煽るようなことを口にして、深々と針を突き刺してくるものだと身構えていたのに。
若宮が仕向けたんじゃなかったのだろうか。
それとも、俺のことまで罪悪感で縛りつけるつもりなのか。
既にがんじがらめにされて身動きが取れなくなりそうだ。
「もういい。羽衣のために我慢するのはここまでだ。もう二度と……彼女に近づくな」
鋭く睨みつけられ、あまりの冷酷さに気圧されてしまう。
針どころかナイフの切っ先を喉元に突きつけられているようだった。
「……そのために記憶を奪ったのか」
向けられたナイフを押し返すようにして低い声で言った。
今朝の行動の非を悔いて省みるのと、羽衣の記憶を奪い続ける若宮への憤りは別ものだ。
俺に対する若宮の怒りは正しいし受け止めるほかないが、だからってそんな若宮の言動すべてを正当化することはできない。
仮に本当に“羽衣のため”という信念を持ち合わせていたとしても、それは間違っている。
「……だったら、なに? きみにはもう関係ない」
「関係ないってことはねぇだろ。俺だって羽衣の幼なじみだし……友だちだ」
わずかに迷った挙句、そう口にした。
少なくとも俺はそう思っている。
ふ、とせせら笑った若宮は冷たい眼差しを刺してきた。
「今朝までは、ね。いまはもうちがう」
ざわめいた胸の奥で心臓が音を立てる。
怯えきって震える羽衣の姿と、まるで他人行儀な困ったような笑い方が脳裏に蘇ってきた。
信頼を失ったという意味でも、記憶が消えて事実ごとなくなったという意味でも、関係そのものが崩れたのは確かだ。
先ほど俺が迷ったのもそのせい。
羽衣に忘れられた以上、近づこうにも近づけなくなった。
いまになってこうして牽制してきた理由は、言葉通り俺の行動に我慢の限界を迎えたからなのか。
それとも、何かに不安を感じて焦っているのか。
「まあ……それでも、きみ自身がそう主張するなら、羽衣にとっての最善が何かも分かるよね? 彼女を混乱させるのはやめてくれるかな」
あたたかみの欠片もない微笑みをたたえ、ゆったりと歩み寄ってくる。
真横で足を止めると鋭く射すくめられた。
「何もしない────きみが羽衣のためにできることはそれだけ。これ以上、邪魔をするな」