消して、奪って、きみだけを
     ◇



 ────おまえが不快だって言うなら……離れる。距離取って話すから、だから……。

 ────ちょっと……羽衣? 何の冗談?

 篠崎くんの言葉と、夏目さんの困惑した表情が何度も脳裏をちらついた。

 ふたりとは同じクラスで、以前は確かによく一緒に過ごしていたはずだった。

 メッセージアプリを見返してみても親しそうなやり取りが履歴に残っていたし、一緒に登下校したことも、一緒にお昼をとったことも覚えている。

 だけど、どうして一緒にいたのかが分からなかった。
 それほど仲がよかったという実感がなくて、感情がついてこないような感覚。

 思い出と呼べるのか分からない記憶も、出来事の羅列(られつ)としてしか捉えられないせいで、どこか他人事みたいだった。

 だけど、ふたりとの間に何かがあったのは確実だと思う。

 彼の言葉からしてもそうだし、あれ以降、わたしを避けるようなふたりの態度も何だか不自然だった。

 わたしが何かしてしまったのだろうか。

 心当たりを探ろうにも、意識が枝を伸ばした先には虚空(こくう)が広がっているだけ。

 思い出せないのか、そもそもそんな出来事なんてなかったのか、それすら分からない。

「彼とはうまくやってるみたいだね」

 唐突に話しかけられ、はっと意識が現実に引き戻された。
 横にはいつの間にか美怜ちゃんが立っている。

 そういえば、体育の授業中だった。

 コートが空くのを待っているわたしに、見学中の彼女が声をかけてきたみたい。
 試合は始まったばかりで、まだ空くまでしばらくかかりそう。

「えっと……」

 何だかその顔を見るのもはばかれる気がして、ちらりと窺ったきりうつむいてしまう。
 美怜ちゃんとどう接すればいいのか分からない。

 あんな場面を目にして彼女の気持ちを知ってしまったいま、わたしが何を言っても耳障りな綺麗ごとや自慢にしかならないように思えた。

「……抜け目ないからな、昔から。でも、わたしのことを忘れさせなかったのは悪手(あくしゅ)だったかもね」

 対して美怜ちゃんは声色こそ平坦(へいたん)なものの、どこか吹っ切れたような態度だった。

 その言葉に顔を上げると、繊細でノーブルな横顔をじっと見つめる。
 どうやら叶人くんの不思議な力のことは、既に把握しているみたいだった。

 それよりも引っかかったのは“昔から”という言葉。
 この間も叶人くんを名前で呼んでいたし、いったいどういう関係なんだろう。

「美怜ちゃんと叶人くんって……」

「幼なじみ、みたいなもの。あなたとは種類がちがうけど」

 意外な答えに目を(しばたた)かせる。
 再び前を向いた彼女は、ここではないどこか遠くを見つめるような眼差しで言う。

「同じ施設で出会ったの。7年前に」

「施設……?」

「児童養護施設」
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