消して、奪って、きみだけを
「あなたの存在も、わたしは前から知ってた」
「もしかして叶人くんが?」
そう尋ねると、美怜ちゃんはこくりと頷く。
離れ離れになってからも、彼女にだけはわたしのことを話していたんだ。
うれしいような切ないような気持ちでそんな叶人くんに思いを馳せた。
「わたしは養親に引き取られることになって施設を出たけど、それからも叶人とは連絡を取り合ってた。あなたが同じ学校にいるって教えたのもわたし」
その言葉にはっとする。
『高校生になってからずっと捜してたんだ。それで、たまたまこの学校に通ってた知り合いから羽衣のことを聞いて、ここに来たいと思った』
いつか、転校と再会は偶然じゃなかったのだと明かされた日のことを思い返す。
『どうして、そこまで……?』
『そんなの、答えはひとつしかないでしょ? 大好きな人に会うためだよ』
そのときたたえられた優しい微笑みまで蘇ってきて、瞳が揺れるのを自覚した。
何だか泣きそうになって、喉の奥が締めつけられる。
いったいどんな思いでこの7年間を生きてきたんだろう。
ただわたしに会うために、それを叶えるためだけに、孤独を耐え忍んできたの?
「……でも、まさか本当に転校してくるとはね」
そうこぼした美怜ちゃんは、どことなく驚いているような、あるいは呆れているような感じだった。
「それで確信したのだけど」
「何、を?」
「叶人の本気を。いかにあなたを一途に想って、求め続けてきたか」
憂いを帯びたような双眸を向けられる。
いまばかりは珍しく興味深そうにじっと見つめてきた。
「あのとき、もしわたしにもあなたみたいな人がいたら……そうなるのも分からないでもない。けど、一線を越えてるのも事実でしょう?」
どきりとした。
これまで叶人くんがしてきたことは、確かに倫理的に正しいことばかりじゃない。
記憶を消すことも、誰かを陥れることも、悪意からではないと分かっていても免罪される理由にはならない。
「手段を選ばないというか、本当にあなた以外どうでもいいみたい。叶人が欲しいのは自分とあなただけの世界……。誰にも邪魔されることなく、思う存分あなたを愛せる世界」
美怜ちゃんの瞳が色を深める。
「あなたが、彼を壊したの」
淡々と口にしているだけなのに、まるでそのしなやかな両手が首にあてがわれたような気がした。
責められている雰囲気ではないのに動揺してしまう。
忘れてしまった彼への罪だけじゃなく、わたしの存在そのものが、叶人くんを歪ませてしまったのだろうか。
すべての原因は、わたしだった……?
わたしのせいで壊れた?