消して、奪って、きみだけを
「能力のことはどこまで知ってるの?」
うろたえるわたしに構うことなく、美怜ちゃんが尋ねてくる。
ほとんど反射のように「だいたいは……」と小さく答えていた。
わたしにしか発動しないということと、消すことしかできないということを以前、篠崎くんと話した覚えがある。
そういえば、どうして彼とそんな話をしたんだろう。
「そう。……あなたがそのとき思い浮かべてることが、てのひらを通してヴィジョンみたいに見えるんだって。その範囲で切り取ってるってこと」
驚いて目を見張る。
そのことは知らなかった。
それなら、叶人くんは消したい記憶をわたしが思い浮かべるよう言葉で誘導していたのかもしれない。
つまり、言葉によって記憶を水面まで誘い出し、浮かんできたものを掬い取って捨てているということだ。
「だけど、あなたを見てる限り……どうやら効果は一時的みたい。記憶を消してるというか、想起回路を切って沈めてると言うべきかも」
その実感はこれまでも確かにあった。
それに、忘れさせられていると自覚したいまなら、“思い出したい”と願うたびにそこらじゅうから鍵を探せる。
これは、かなり大きな気づきだった。
「どうして、そのことをわたしに教えてくれるの? 叶人くんにとっては隠しておきたいことだったんじゃ……」
「そうだね。でも、あなたには分からない」
突き放すような言葉の割に嫌な言い方ではなかった。
むしろ清々しいような口調で、今日は一貫して潔い感じがする。
想いの行方は分からないけれど、思い上がりでなければ、この間みたいなわたしに対する拒絶も感じられない。
そういえば、いつもは敬語混じりなのに今日はそんなこともなかった。
思わず美怜ちゃんを見つめていたら、彼女はふと顔を戻す。
今度は目の前を見ているのにどこにも焦点を合わせていないような気がした。
「わたしは……彼とはちがう。周りがどうなってもあの人を得られればいいなんて思えない」
あの人、はきっと篠崎くんのことを指している。
それは優しさゆえかと思ったけれど、美怜ちゃんはすぐに否定した。
「綺麗ごとじゃない。わたし自身は別に周りがどうなろうと興味ないから……。でも、それじゃあの人が悲しむって分かった」
邪魔者と見なした周囲を排除して、都合のいいように繕い整えた先の世界に、思い描くような幸せが果たして待っているのか。
わたしじゃなく、ここにはいない叶人くんにそう投げかけているような気がした。