消して、奪って、きみだけを
「やっぱり間違ってるんだと思う。相手の心を置き去りにして、上書きしてるだけだから」
美怜ちゃんの言葉とは思えなくて驚いてしまう。
だけど、彼女自身、一度そうやって置き去りにした上で独りよがりな選択をしてしまったからこそ、たどり着いた答えなのだと思った。
「でも別に、だからって叶人が裁かれるべきだとか、あなたが報われて幸せになって欲しいだとか思ってるわけじゃない。分かると思うけど、純粋に応援できるほどわたしはお人好しじゃない」
ここまでいつになく饒舌に、惜しみなく心境を吐露してくれた理由が分かった。
失うものがなくなったからだ。
篠崎くんの反応を窺う意味がなくなったから、わたしに気を遣う必要もなくなった。
叶人くんに積極的に協力する理由もなくなった。
彼女は淡々と言葉を繋いだ。
「はっきり言ってあなたは贅沢。それに、平気であの人を傷つけたことからしていい気もしてない」
言葉に力が入ったのが分かり、つい目を落とす。
わたしが平気で篠崎くんを傷つけたという出来事は、いまのわたしには思い当たらないけれど、それが事実ならひどく心苦しい。
美怜ちゃんは小さく息をつき、少しだけ力みを緩めた。
「それでも、叶人のしてることを思えば何も知らないままなんてフェアじゃない。……だって、ずるいでしょう? あなたの気持ちさえ仕向けられたものかもしれない」
「それは……」
「答えられないよね、覚えてないんだもの。正確には忘れさせられたんだけど」
きつく口の端を結び、うつむいて顔を戻す。
確かに一番大事なことを思い出せないまま、ここまでずるずると流されてきた。
思い出さなくていい、という叶人くんの優しさに甘えて彼だけに過去を背負わせた。
わたしの罪ごと、罪悪感ごと、許された気になってはいなかっただろうか。
美怜ちゃんの言う通り、たとえ叶人くんがわたしの負い目を利用して好きになるよう仕向けていたとしても、もういまさら離れられない。
どうすればいいんだろう。
いつの間にか、思い出すことが怖くなっていた。
もし、耐えがたい自分の罪の記憶が戻ってきてしまったら、叶人くんのそばにいることに耐えられなくなるかもしれない。
だけど、このまま逃げ続けていたら、自分だけが楽に息をしているみたいだ。
わたしの苦しみも痛みも叶人くんひとりに押しつけて、ぜんぶなかったことになんてできない。したくない。