消して、奪って、きみだけを
「……何があったのか。わたしが叶人くんに何をしたのか、知ってるなら教えて」
覚悟が固まりきらないまま口にしたら、心がちぎれそうになって声が震えた。
縋るように美怜ちゃんを見たけれど、彼女は静かに首を横に振る。
「知らない」
端的な答えは、嘘をついている感じではなかった。
叶人くんは彼女にさえ話していないということだ。
「あなたが決めるしかないんじゃない? 思い出すか思い出さないかも、彼のやってきたことを知った上でどうするのかも」
心が本当にちぎれてしまわないように、ぎゅう、と胸の前で手を握り締めた。
渦を巻いたようなしわが寄る。
「少なくとも、このままでいることだけは許せない。あの人とのことも忘れてるなら思い出すべきだし、ちゃんと話すべき。……あの人がいままでどれだけあなたのために動いてきたか」
美怜ちゃんがまっすぐにわたしを捉えた。
やるせなさだけじゃなく、どこか寂しそうな響きが残る。
真に受け止めて頷くと、感覚を失っていた手をゆっくりとほどいた。
「……美怜ちゃんも」
そう言うと、彼女の瞳がはっと揺れる。
「あのことは、もう一度ちゃんと話さないと」
潔いけれど、諦めや踏ん切りがついたわけではないということが十分すぎるほど分かった。
それほど強い想いがあるのなら、投げやりになんてなって欲しくない。
「……そうだね」
意表を突かれたようにしばらく戸惑いをあらわにしていた彼女は、ややあって目を伏せる。
「でも、そんな機会が残ってるのか……」
「もちろん。篠崎くんだったら適当には済ませないし、ちゃんと聞いてくれるはず。……って、何でかな。そう思えてならない」
自分でもよく分からないけれど、不思議とそう確信を持って言えた。
彼のことはあまりよく知らないはずなのに。
妙な感覚に困ったように笑うと、美怜ちゃんがわずかに眉を下げて頬から力を抜く。
「……さすがだね。記憶が曖昧でも、信頼は伊達じゃないんだ」
感心しているようにも聞こえたけれど、それよりもどこか寂しげな色が強かった。
前を向いたその横顔は影があるのに澄んでいる。
「そういうところが憎らしくて……すごく羨ましい」
◇
記憶の欠片はそこらじゅうに散らばっていた。
手がかりを示す道標みたい。
『大丈夫か? 何かうなされてたけど』
『大丈夫、大丈夫。ちょっと……夢見てただけ』
朝、バスに乗ったときには幻みたいに透き通ったわたしと篠崎くんが見えた。
きらきらと光をなびかせながら溶けて消える。
その光の粒に導かれるようにして記憶の道筋をたどっていった。
放課後の教室、日の傾く帰り道────。
柔らかい光彩に包まれた、わたしや彼や彼女の幻影が眩しい。
(そうだ、わたし……)