消して、奪って、きみだけを
羅列でしかなかったはずの出来事ひとつひとつが、だんだんと色づいていった。
涼も、日和も、ふたりともわたしの大事な友だち。
こんな大切なことを簡単に忘れられるわけがなかった。
胸を締めつけられるような思いで、剥がれてしまっていたラベルをもう一度貼り直す。
忘れていたことを思い出したわけじゃない。
どこか遠くへ置き去りにされていた感情が追いついて、手元に戻ってきたみたい。
集まったきらめく欠片は両手にもおさまりきらず、気づけば抱えるほどたくさんの思い出があふれていた。
頭の中の箱にしまって、こっそり鍵をかけておく。
二度となくさないよう、その鍵を大事に大事に握り締めた。
(でも、これも叶人くんの仕業だったってことだよね……?)
唐突にふたりとの関係を忘れてしまうなんて普通じゃない。
彼がそうしたのだと考えるのが真っ当だと思う。
確かに色々あって、ふたりを失ったわたしは半ば心が折れかかっていた。
何があっても優しく寄り添ってくれる叶人くんさえいれば十分だと、嫌な記憶ならいっそぜんぶ忘れた方がましだとすら思った。
それを、極端な形で叶えてくれたということだろうか。
だけど、そうやって辛いことに蓋をして、彼の腕の中へ逃げ込んで────それでいいのだろうか。
ふたりとの関係を思い出したいま、こんなに泣きそうになっているのに。
(……とにかく、話さなきゃ)
ぽっかりと心に空いていた穴にあたたかい光が満ちていくような感覚が、安心感と勇気をくれる。
鞄を教室に置くと、廊下を駆けていった。
バルコニーへ出ると、フェンスに腕を載せて寄りかかる見慣れた背中を見つけた。
そっと歩み寄り、彼の前に右手を差し出す。
そこにあるのは半分に割った苺味のワッフル。
片割れは左手に持ったまま、彼が振り向くのを待った。
「羽衣……」
差し出されたワッフルとわたしを交互に見比べる涼の顔には、驚きと困惑が分かりやすく滲んでいる。
光の粒を浴びた気分で笑いかけた。
「いつもこうしてたよね。わたしが落ち込んでるとき、涼は一番に気づいてくれたし、見逃さないでいてくれた」
そう告げると、はっと彼は目を見張る。
フェンスから腕を下ろし、身体ごとわたしに向き直った。
「思い出したのか?」
「思い出した、っていうより……覚えてた。しばらく頭が混乱してたけど、記憶をたどるうちに“覚えてる”ってことを思い出したような」