消して、奪って、きみだけを
こんなに長いことずっと一緒にいたのに、わたしの変化にはいち早く気づいてくれるのに、わたしはずっと分かった気になっていただけ。
無意識にどれだけ傷つけてきたか、考えてみるとたまらなくなる。
「わたしこそごめんね。涼の気持ち、考えもしないであんなこと……」
「……何でおまえが謝るんだよ。怒ってくれよ、せめて。俺は嫌われて当然のことしたのに」
涼は戸惑いの表情を浮かべたあと、痛々しく顔を歪めた。
「拒んでくれよ、ちゃんと。おまえは、自分を大事にすることをあと回しにしすぎなんだよ……」
目を落としたまま紡がれた言葉は優しくて、その涼らしさに思わず力が抜ける。
なかったことにはならないし、都合よく忘れることもできない。
だけど、いま目の前にいるのがわたしのよく知っている涼であることに心からほっとしていた。
遠くなってなんかいなかった。
ワッフルを半分、届け合える距離にずっといる。
「じゃあ、仲直りしよう?」
涼のしたことを軽く受け止めるわけでも、わたしの過ちを省みて差し出すだけでもなく、本来の温度を探るようにそう言った。
弾かれたように顔を上げた涼はややあって眉を寄せ、不可解そうにまじまじと見つめてくる。
「なに、言って……。そんな単純な話じゃねぇだろ。簡単に許されることじゃ────」
「許す。……わたしがそう言ってもだめ?」
とことん責任を背負い込み、自分の行動を重く受け止めている涼は、許されるために謝ってくれたわけではないみたいだった。
だけど、このことでいままでの彼のすべてを否定したくはないから。
「確かに怖かったけど、涼と話せなくなる方が嫌なの」
気づけば、身体の強張りも少しずつほどけていて、いつもの距離感に安堵している自分がいた。
わたしたちが一緒に積み重ねてきた時間と、紡いできた関係の証明────ここで途切れてしまう方が悲しい。
想いを知った以上、完全に元通りとはいかない。
このままでいたいと思うのは、きっとわたしのわがまま。
それでも、涼を失いたくない気持ちの方が何よりも大きかった。
「おまえって本当に……」
縋るように見つめていたら、ややあって涼が呟く。
けれど、最後まで言いきる前にかぶりを振った。
「何でもない。……羽衣にそう言われちゃ、もうこれ以上は俺の意地になっちまうな」
「そうだよ、意地っ張りで頑固」
「うるせぇ、おまえも意地っ張りだろ。その上、不器用でドジで……」
急に悪口を言い始めた涼にむっとしていたら、ふと言葉を切った彼が「でも」とこちらを向く。
先ほどまでの思い詰めたような苦しげな重みが抜け、染み入るようにやわく笑んでいた。
「ありがとな」