消して、奪って、きみだけを
初めて見る表情だったけれど、不思議とわたしも一緒に心が軽くなった感覚を覚えた。
もつれていた糸がほどけ、気持ちが和らぐ。
「……それは、わたしに対して? それともワッフルのこと?」
「聞くまでもねぇだろ。あー、うまかったな」
「もう……本当に調子いいよね」
つい笑ってしまうと、涼もふっと表情を緩めた。
何だかこんな会話をいつかどこかでしたような気がする。
「冗談だって。おまえに一番伝えたかったことだ」
はっと瞳が揺れるのを自覚した。
少し前まで彼との繋がりもその実感も失っていたのに、彼の心を図らずもないがしろにしてしまっていたのに、恨み言ひとつ言わない。
涼がわたしを責めたことは一度もなかった。
それなのに、それが痛い。
「……ごめん、わたし────」
「日和のことは?」
たまらず謝って、取りこぼしてしまっていた涼の心に向き合おうとした。
だけど、見透かしたように別の話題で遮られて顔を上げる。
「思い出したのか?」
そう続けざまに尋ねられ、言おうとしていた言葉は言えなくなった。
いずれ向き合わなければいけないのは確か。
だけど、いまじゃない。
暗にそう示された気がして、こくりと頷いたわたしはブレザーのポケットに手を入れた。
取り出したのは白猫のマスコット。
両手で包み込むようにして持った。
「覚えてる。いつもわたしを気にかけて、支えてくれる親友……だった」
ふわふわした手触りは柔らかいのに、指先を刺されているような錯覚を覚える。
日和はいつだって、自信がなく頼りないわたしの手を引いてくれていた。
あの向日葵みたいな明るい笑顔が大好きだった。
────……うざい。あんたって本当、偽善者だよね。
────あんたと友だちになった覚えなんかないから。
心をずたずたに切り裂くような冷酷な言葉の数々が、耳の奥で蘇って響く。
そのままばらばらに砕けて形を失いそうだった心を繋ぎ止めてくれたのは叶人くんだったけれど、同時に彼は、悪いのは日和だとも言っていた。
だけど、やっぱりわたしにはいままでのすべてが偽物だったとは思えない。
日和の笑顔や彼女との時間は、鍵をかけても箱から輝きが漏れ出ている。
────ちょっと……羽衣? 何の冗談?
すべてが嘘だったなら、関係性を忘却したわたしにあんなふうに戸惑ったりしない。
────嘘でしょ……。今度は何を忘れさせられたわけ?
あんなふうに衝撃を受け、絶望したように動揺することもないはずだ。