消して、奪って、きみだけを
涼だけじゃなく、日和の機微もわたしは見落としてきたかもしれない。
それでも、わたしを照らしてくれたあたたかさやそこから受け取った優しさは両手からあふれるほど。
それがどれだけわたしを救ってくれていたか、支えてくれていたか、ありがたかったか。
わたしにとってどんなに大きくて大事な存在だったか、伝えることをおろそかにしてきたせいでひびが入って割れてしまったんだ。
「日和と話したい。もう一度」
もう過去形にしたくない。
また拒絶されるかもしれないけれど、わたしの声が届く余地はあるのだと信じたい。
「……だってよ、日和」
ふと、涼がどこかに向かって声をかけた。
その視線を追いかけるように振り向くと、開け放たれていた扉の枠におずおずと日和が現れる。
「えっ? どうして……」
「か、勘違いしないで。別に盗み聞きしてたわけでもないし、そもそもあんたと話しにきたんじゃないし」
どこか出方を迷っているような、態度を決めかねているような様子で、懸命に棘を向けてきている感じがした。
目は合わせてくれないけれど、拒絶というより困惑しているように見える。
わたしもまた戸惑って涼を窺った。
「まあ、半分本当ってとこか。実際、もともと日和とここで落ち合って話そうと思ってたんだけど……そしたら、ちょうど羽衣が来てくれたから」
「日和と、って……」
「こいつ、知っての通り素直じゃねぇからさ。こんなやり方でしかおまえを守れねぇって、わざと突き放したんだよ」
思わぬ言葉に目を見張り、驚いたまま日和を見やる。
涼はわざと呆れたような声色で続けた。
「裏ではこうやっておまえのこと心配してたわけだ。あのときからずっと、変わらず」
穏やかな風に揺れる水面みたいに、心が震えて締めつけられる。
水面はきらきらと光を弾いて眩しかった。
「ちょっと、なに適当なこと言ってくれちゃってんの? あたしは別に……」
「もういいだろ、日和。潮時だよ」
焦ったように取り繕おうとした日和だったものの、涼が落ち着いた様子で言う。
彼女は一度、口をつぐんだ。
静かだけれど優しい語り口が、日和のまとっていた棘を折り、鎧を溶かしたみたいだった。
その瞳が惑うように揺らいだのを見た瞬間、気づいたらわたしは日和を抱き締めていた。
驚いたように息をのむ気配がして、ぎゅう、と腕に込めた力を強める。
押し返されても簡単に離してしまわないように。
それがわたしのための嘘だったと知ってしまったから。