消して、奪って、きみだけを
「……ごめんね、日和」
自分勝手だと分かっていても、何だか泣きそうになってしまう。
戸惑いはしても拒絶されなかったことにほっとして、またいっそう胸が詰まった。
「わたしね、勝手にずっと安心してたの。日和はわたしのことよく分かってくれてるし、困ったときはいつでも助けてくれたから、言葉にしなくても何でも伝わってるって勘違いして」
「羽衣……」
「日和が大好きだって、ちゃんと言えてたらよかったのに」
そうしていれば、傷つけることも悲しませることもしなくて済んだかもしれない。
この猫のマスコットのこともそうだった。
入学して間もない頃、もっと仲良くなりたい、と日和が差し出してくれた気持ちそのもの。
受け取ったときはうれしかったのに、わたしが勝手に途切れさせてしまった。
叶人くんの不安は和らげ、期待に応えようとするくせに、日和のそんな感情は置き去りにしてしまっていた。
だから彼女には優先順位があるように見えていたのだと思う。
日和なら分かってくれる。
そんな思い上がりが、最初にひびを入れたのだ。
明るくて優しくて強い、向日葵みたいな女の子。
わたしが見ていたのはわたしの中のそんな日和で、目の前にいる日和じゃなかった。
「……それは、あたしも同じ」
ややあって、そんな声が空気を揺らす。
普段みたいにはつらつとしてはいないけれど、毒や棘を帯びてもいない、澄んだ声色だった。
そっと離れ、まっすぐにわたしを見据える。
「羽衣のせいじゃない、とは……あたしは言えない。ごめん。あんたの言動で傷ついたことは本当だから」
誤魔化すことなく伝えられた本音が、心の底の部分に着地した。
決して軽くはないその言葉を真に受け止める。
「正直、辛かった。叶人くんが現れてから、あたしの役割も居場所もぜんぶ奪われてくみたいで。あたしはもういらないんだって言われてる気がした」
「そんなこと……」
「分かってる、あたしがひねくれてた部分もあったから。でもね、あたしの声が届かなくなったことが何より苦しかったんだ」
そう言われて真っ先に思い至ったのは、文化祭当日に起きたあの事件のこと。
日和を疑ったわけではなかったけれど、その言葉を信じなかったのも事実だった。
それまでに蓄積していた不満や不信感があのとき爆発したのだと思う。
だけど、そんな日和の悲鳴さえ、わたしは一度耳を塞いでやり過ごそうとした。
「ごめん……」
「ちがう、責めたいんじゃないの。同じだって言ったでしょ」